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season.1 終わりと、始まりと。
「ぃやー!!」
園庭に響いたあの子の悲鳴に、みんなが同じ方向を向いたと思う。
ほんの少し傍を離れた間に、本当はあの子を好きなくせに苛めることでしか構えないアイツが、またちょっかいをかけたみたいだ。
転びそうな勢いでダッシュして、体当たりで突き飛ばそうとしたのに。
「ひゃぁっ!?」
意地の悪い顔で笑ったソイツは底意地の悪いドヤ顔をキメながら、ウゾウゾと足を蠢かせている虫をこっちに向けた。
ゾワリと背中が震える。
「ほのちゃん……」
「……かほちゃん」
涙目で見つめてくる佳歩の無言の助けてが聞こえたら、後はもう勢いだった。
なるべく虫に触らないで済むように、だけど怒りの全てを込めてソイツの手を叩き払った。
ぶぃ~んと音を立てて虫が飛び立っていく。
向こうの方でまた女の子達の悲鳴が上がったけれど、知るものか。
苦々しい顔でこっちを睨んでくるソイツを、視線で殺すつもりで睨み付ける。
「あっちいってよ……!!」
「……おまえなんか、こわくないし……」
「あっちいってってば!!」
佳歩に走り寄って背に庇う。
ぎゅっと背中にしがみついてくる佳歩の温もりは、何よりの励ましだ。
「どっかいって!!」
大きな声を出して粘り勝ちするのはいつものことだった。収拾がつかなくなったとしても、最後には先生が飛んできてくれると思えば安心して無茶ができる。
これ見よがしにそっぽ向いて走っていく負け犬の後ろ姿を見送らずに、しがみつく佳歩を振り返った。
「だいじょうぶ?」
「ほのちゃん、ありがと」
えへへ、とまだ目に涙を溜めたままの佳歩が笑ってくれるのが嬉しくて幸せで、てへへと笑い返す。
幸せで幸せで切ない記憶だ。
あの頃は、ただ傍で笑っていられただけで幸せだったのに。
──欲張ろうとしたから、バチが当たったんだろうか。
「あのね、あたし結婚するの」
「…………ぁ……そう、なんだ……おめでとう」
「ありがとう! それでね、今度、歩叶にも会って欲しくて……」
「……うん、そうだね。……佳歩に相応しいかどうか見極めないとだもんね」
精一杯の虚勢で笑って見せたけれど、幸せいっぱいの顔で笑う佳歩を見つめていることが難しくて、不自然にならないように気を付けながら視線を外したら、一口欠けたケーキを見下ろす。
欠けた一口は、さっき佳歩の口の中へ放り込んだ分だ。佳歩が1つを選べない時に、佳歩の希望を聞いて2種類のケーキや食事を分け合うことはしょっちゅうで、──間接キスだなんてバカ騒ぎしていた昔が懐かしい。
フォークを持ち上げる気力すらなくなってしまった手になんとか力を入れて、ケーキにフォークを突き刺す。
「……ホントにおめでとう」
「ありがとう」
声は、震えていないだろうか。手は? 何よりも顔は、ちゃんと笑えているだろうか。
砂を噛むかのように味のしないケーキは、本当に美味しいと評判のお店のものだろうか。口の中でパサパサモソモソするケーキを流し込んだ紅茶も、なんだか苦くて渋くてどうしようもない。
「歩叶は? 彼氏と最近どうなの?」
「ん? ……まぁまぁ変わらずだよ」
嘘だった。佳歩が知っている彼氏とは、2年も前に別れている。別れた原因は自分にあって、結局は佳歩を諦めきれない未練がましい態度を隠せないことにあった。
「結婚式、絶対来てね」
「……当たり前じゃん」
「アットホームな感じのこじんまりした式にしたいんだぁ。お日様の下の式とか凄く憧れててね~」
「そっか……」
絶対行くよと笑う顔は、いつも通りだろうか。
キラキラした顔で夢を語る唇を、今すぐにでも自分の唇で塞いでしまいたい──。
勇気も踏ん切りもつかないそんな野望を、紅茶と一緒に飲み込んだら
「……佳歩、もう一口」
「え、やったー」
わーい、と無邪気に口を開けた佳歩の口に大きめの一口を放り込んだ。
前山佳歩とは、3歳で保育園に入園してから高校卒業までを同じ学舎で過ごした仲で、社会人7年目になった今でも変わらない付き合いのある親友であり幼馴染だ。
私──松原歩叶は、いつの頃からか佳歩のことが好きになっていて、それはライクじゃなくてラブの方なんだと自覚できたのは高校生の時だった。
別に私が性同一性障害だとか、LGBTQだとか、そういうことではないんだと思う。彼氏がいたこともあるし、そういう意味ではバイセクシャルに近いものはあるのかもしれないけれど、佳歩以外の女の子とキスしたいとは思わない。
時々は女の子を抱き締めてあげたいという思いが込み上げることもあるけれど、それは純然たる庇護欲からだ。逆に男に抱き締められてホッとすることだってある。
だけど、女の子達に抱く優しくしたいとか仕草が可愛いとか抱き締めたいとか思う気持ちは、佳歩に抱くのとはまた違う気持ちだということも、ちゃんと理解している。
むしろだからこそ厄介なのだと思う。
佳歩に抱くそれも、庇護欲だと思い込んでいられたら良かったのに。
そんなことをツラツラと考えていたら、仕事中にも関わらずつい小さく溜め息を吐いてしまった。幸い、両隣の同僚達は席を外していて、聞き咎める人もいなかったけれど。
「松原せんぱぁい!」
「……畑野」
「やだまたぁ! 彩月って呼んで下さいよぅ!」
「……相変わらず元気だね」
「元気だけが取り柄ですからねぇ」
ふふ~ん、と胸を張るのは職場の後輩である畑野彩月だ。彼女の入社時に研修を担当して、そのまま通常業務でも面倒を見ることになった。付き合いはそろそろ3年目になる。何が彼女に刺さったのかは分からないが、やけに懐かれてしまっていた。
「そういう先輩は元気ないですね? なんかありました?」
主任のセクハラですか? と堂々と聞いてくる畑野の怖いものなしの発言は、ちょっと、と軽く窘める程度で止めておく。私自身は主任のセクハラ発言なんて雑音なだけでもう耳に入りはしないのだけれど、他の女性陣が困っていることは知っているのでこういうタイミングは積極的に活かしておくべきだろう。
三つ離れた席に座った主任の顔が奇妙に歪んだのを見つけたら、そっと視線を畑野に戻した。
「そんなことより、頼んでたやつ進捗どんな感じ?」
「今日中には終わりますよ! だから飲みに行きません?」
「作業早くなったね。ありがとう」
「……えぇ~、飲みの話は無視ですかぁ」
「……畑野とはしょっちゅう行ってるでしょ」
「今日はちゃんと割り勘でいいですからぁ」
金曜日なんだし行きましょうよぉ、と駄々をこねる畑野は、私が応と言うまで仕事を再開しないつもりらしい。私の机に張り付いて、ねぇねぇせんぱぁい、と甘えた声を出している。
「も~……分かったから。仕事して仕事!」
「わぁいやったぁ! 定時上がりですよ!」
「はいはい」
「店探しときますからね~」
わぁい、と子供のように無邪気にはしゃぎながら席へ戻った畑野の後ろ姿を見送って、溜め息混じりの苦笑を零す。
本当に一体なんでこんなに気に入られてるんだかと呆れ半分照れ臭さ半分で頬を掻いたら、作業を再開することにした。
「んもぉ、重い……!」
畑野が太っているとか、そういうことではないことは分かっている。意識のない人間を一人、抱えて歩くというのはそれだけ重労働だと言うことだ。
店で酔い潰れた畑野をそのまま放り出す訳にもいかずに、一緒にタクシーに乗って畑野の家に送るつもりだったのに、畑野は結局タクシーの車内で頑として目を開けなかった。結果的に一人暮らしの自宅へ渋々ながら連れ帰るしかなかったのだ。
「よぃっ……しょっと……」
ほとんど投げ落とす勢いで畑野をベッドに転がして溜め息をひとつ。やれやれと肩をぐるりと回して、さて自分は風呂って着替えるかと寝室を出ようとした時だった。
「せんぱいってぇ……女の子、好きですよねぇ」
眠っているとばかり思っていた畑野が目を閉じたままでおもむろに呟いた台詞は、当然ながら相当な破壊力をもって私の中の何かを抉った。
社会人も7年目になって、上司のドギツイ下ネタも慌てず騒がず笑ってスルー出来るようになっていたけれど、この問いかけにはさすがに一瞬言葉に詰まる。
「……。…………何言ってんの急に。寝てたんじゃないの」
「あれ? 違いました?」
「……違うよ」
「あれぇ? 先輩は、あたしと同じだと思ってたんだけどなぁ」
決めつける声で紡がれた言葉の意味を、理解してまた言葉に詰まった。
「…………もういいから、寝なよ」
「ヤです」
「酔い潰れてたんじゃなかったの」
「……潰れてました。タクシーで寝たら復活しました。もう酔ってません。だから答えてください」
「……畑野……」
「……じゃあ酔ってることにしてくれてもいいです。だから答えてください」
いつもの甘えた声とは違う、真っ直ぐで真摯で苦しげな声が迫ってくる。
「あたしは……女の子は別に嫌いじゃないけど……そういう意味では好きじゃないよ」
「…………ホントですか?」
「……ホントだよ……」
「──あたしは先輩が好きです」
「何……急に……」
「先輩が、そういう意味で好きです」
「だから、別にあたしは……」
どこまでも真っ直ぐで、どこまでも切ない声に浅い息を吐くしかない。
そんなこちらの態度にもめげずに、畑野はベッドから体を起こしてぐいぐい迫ってくる。
「先輩は……あたしのことなんて、眼中にないって分かってますけど……」
「……だったらどうして──っ」
そんなことをと続けたかったのに、畑野が急に顔を近づけてきて仰け反った。
「なに!?」
「……キス、しちゃおうかと思って」
「何言ってんの!?」
「あたし、キス上手いんですよ。……心はもらえなくても、肉体的に依存してくれないかなって」
「なっ……!?」
「あたし先輩が好きなんです。……抱き締めたいし、抱き締めて欲しいし、キスしたいし、セックスしたいです」
誰の目もないのをいいことにぐいぐい迫ってくる畑野の目は、どこか淋しい色をしている。
「あたし、ちっちゃい頃からずっと女の子が好きで……親はそのこと知ってるけど受け入れてはもらえなくて……なんかずっと、家族なのに疎外感感じてて……。会社入って、先輩に色々教えてもらったり、上司のセクハラとかアルハラとかから守ってもらったりとか……誰にでも優しいところはちょっと複雑なんですけど、でもかっこよくて強くて……時々凄く涙脆いとことか……好きなんです」
「……美化し過ぎだって……」
「ダメですか? あたしじゃ、先輩の心の中に居座ってる人に勝てませんか?」
「勝つとか負けるとかじゃないでしょ……?」
ねぇ落ち着いてよと宥めながら、いつ気付かれたんだろうと内心オロオロしてしまう。
佳歩への想いは普段から絶対に表に出したりしないし、封じ込めることにはもう慣れっこなほどだ。彼氏がいるフリだってもう2年も続いていて、本当にいるんじゃないかと自分でも錯覚するほどなのに。
いったいいつ、バレたというのだろう。
「先輩」
「ぇ? ──ンぅ? っ!!」
一瞬の油断だったと思う。ほんの一瞬意識が逸れただけのタイミングを見計らった畑野に唇を奪われて、驚きに声を上げようと開いた口の中に畑野の舌が入ってきたと気付いた時には、舌まで絡め取られていた。
「は……っ……ん、ゃ……ッ」
(ちょっと、なに……っ、ホントに……キス……!?)
上手いと豪語していただけあって、舌先で優しく内を探られたり、時々強く舌を吸われたり、一転して唇を柔らかく啄まれたりしている間に体からどんどん力が抜けていく。
とうとうふにゃりと足が砕けて畑野を押し倒す形でベッドに倒れる頃には、自分のか畑野のか分からない唾液で口元がベトベトになっていた。
「んふ……先輩、とっても可愛いですね」
とろっとろです、と笑う畑野は心底嬉しそうだ。
ころり、と寝返りをうつように体を返されて、畑野に組敷かれる。おずおずと見上げた先で、畑野がまた嬉しそうに口角を上げた。
「キス……上手だったでしょう?」
ニコニコ笑ったままの畑野の細い指先が私を撫でるそこここから、ピリピリした快感が走っていくのが怖い。
「あたし、どっちかって言うとネコなんですけど……こんな先輩見てたら、襲いたくなっちゃいます」
いいですよね、という呟きは同意を求めてすらいない。
「やっ……ちょ、……まって」
「待てません」
「はた、」
「彩月です」
呼んで、と耳元で囁いた唇が、そのまま耳朶をやわやわと食んで、舌で優しく耳の中を舐め上げられた。
「んゃっ、は……っ、さ、つきッ」
「やっと呼んでくれましたね、嬉しいです。……ねぇ先輩……きもちぃですか? 耳、好きですか?」
「やぁ……や、めて、……ってば、ァ……」
「んふ、気持ちよさそうですね。このまま続けちゃいますね。いっぱい気持ちよくなって下さい」
「ちょっ……ッァあ、ぁ」
(……やだ……、嘘でしょ)
じわり、と奥の奥が潤んだのが、自分でもハッキリと感じ取れた。
何をされてるんだろう。畑野はいったい、何をしてるんだろう。経験人数は多い訳でも少ない訳でもないと思うのだけれど、自分の耳にまさかこんなにもたくさんのウィークポイントがあったなんて知らなかった。
ムズムズして落ち着かなくて、無意識に太ももを擦り合わせる。
「先輩、素敵です。凄く可愛い……どうしよう……こんなに可愛いなんて最高です」
うっとりした声が情熱的に囁くのに、耳が痺れる。
セックスの最中にこんなにも情熱的に語りかけられたのは始めてかもしれない。グラグラと心と頭が揺れて、理性のネジも吹き飛びそうだ。
「ぁ……も……ぉねが……ゅる、して」
「許す? 何も問題なんて起きてませんよ。だから、何も心配しないで溺れちゃって下さい……」
耳から首筋を舐め下ろした舌と入れ替わりに、畑野の指先が同じ場所を撫で上げる。
鎖骨回りを唇が這い回って優しく愛撫される。
その度にきゅんと疼く下腹部と、口から零れる自分の矯声とに翻弄されるしかなくて、オロオロと畑野の服の裾を握り締めた。
「……先輩?」
「こわ、ぃよ…… 」
「っ……反則です、先輩。……なんなんですかそれ……」
「はた……ッ」
怒ったように呟いた畑野は私も気付かない間にブラウスの前ボタンを全部外していたみたいで、着ていたインナーキャミの下を畑野の手のひらが這っていた。
「先輩……覚悟してくださいね」
「ま、ぁって、……っひぁ」
「もう、男とするセックスになんて戻れなくなりますよ」
にこりとニヤリの中間くらいの艶やかな笑顔だった。
どくんと心臓が大きく一跳ねするのをよそに、畑野の手のひらが動く。ブラジャーはいつの間にかホックを外されていたようで、簡単に上へとずらされた。
乳房を柔らかく撫でた優しい指先が、乳輪の輪郭をなぞるようにクルクルと回る。おずおずと立ち上がった乳首には一切触れないままで、ギリギリを掠めていく気配に尖端がどんどん敏感になっていくのが分かる。
「やっ……っや、ァ……は、たの……」
「……彩月って呼んでくれないんですか?」
「さつっ……っ、ぁ……さつ、きッ」
「なんですか、先輩?」
私が名前を呼んだだけで嬉しそうに笑った畑野が、キャミソールをめくる。期待に喉が鳴ったのを聞き逃さなかったらしい畑野が、さらに笑みを深くした。
「ここ……苛めて欲しくなっちゃいましたか?」
「ひゃンッ、ふぁ……ァ」
「ふふふ……先輩ホントに可愛い。おっぱいだけでこんなに可愛くなっちゃうなんてズルイです」
とんとんと固くなった先っぽを指先で優しく叩かれただけで腰が跳ねて、ちゅっと唇が触れただけで悲鳴が漏れる。
こんな経験は初めてだ。
「もっとですよ、先輩。……もっと気持ちよくなりましょ」
「やっ……もぉ……やだぁ……」
「やじゃないですよね? ……あ、そっか、舐める方が好きですか?」
「ふぇ? やっ……まっ……っアぁぁッ、ンッ、ふぁあっ」
ぱくりと食べられた乳首が、畑野の口の中でコロコロと転がされた。
じゅんと、また溢れた蜜で下着が濡れたのが分かる。
「んふ、可愛い。ホントに可愛い。おっぱいもすんごく可愛い。……その上感度もいいなんて最高です」
貧乳だと言いたいのかと、男相手なら言っていたと思う。正気に返る隙さえ与えない愛撫に腰から下が砕けたのと一緒に、色んなものが砕け散ったのかもしれない。
「まだまだこれからですよ。女同士のセックスは、永遠に気持ち良くなれるんですから」
えいえん、と譫言のように呟いたのを同意の合図と心得たのか、畑野は私の知らなかったウィークポイントを丹念に探し当ててはじっくりと優しい愛撫を続けた。
全てを脱がされるまでにいったいどれほどの時間が経って、何度絶頂へと昇りつめたんだろう。身体中からぐったりと力が抜けてしまっている。
「あ~……こんなに気持ちいいセックス、久しぶりです」
んふふ、と嬉しそうに笑う畑野も既に全裸で、細い腰が艶かしく揺れている。
畑野の手に導かれて畑野を愛撫する私の手はしとどに濡れているし、畑野が私に触れる度にぴちゃぴちゃと淫らな音が耳を刺激した。
「さつき……もう……むり……」
「えぇ~。これからですよ、先輩。一番気持ちいいやつが、まだです」
「……いちばん……?」
もう十分だと、半ば泣きながら呟いたのに、畑野は嬉しそうに笑っただけでスルーした。
「あたしと付き合ってくれたら、毎日気持ちよくしてあげられます」
「……」
「付き合うのが無理なら、セフレでもいいです。あたし、先輩の心も欲しかったけど……こんなに気持ちいいセックス、初めてなんで。セフレでも我慢出来ます」
「なに、いってんの……?」
「一番気持ちいいやつ、知りたくないですか?」
「……しりたくない……」
こわいよ、と思わず零れた声を聞いたらしい畑野が、優しい顔で笑った。
「怖くないですよ。ホントに可愛いですね、先輩。……ね、溺れちゃいましょ」
大丈夫ですよと囁いた畑野が、自分の蜜と、私のしたたる程に溢れた蜜を混ぜ合わせるように擦り付けてきた。
にゅるりと滑る得たいの知れない快感に、悲鳴と一緒に零れた涙を畑野が器用に舐めとる。
「大丈夫ですよ。なんにも怖くないです。とっても気持ちいいでしょう?」
「や……や、ぁ……これ……っぃや」
「嫌じゃないです」
「やっ……ぅごかないでっ」
「あたしじゃないですよ。先輩が、動いてるんです。……腰、そんなに振っちゃって……気持ちいいんですね? とっても可愛いです」
「やっ!? とめっ……やだぁ」
「止まらないですよ。言ったじゃないですか。永遠に気持ちいいって」
優しい顔で笑う畑野が、唇を塞ぎに来る。怖くて怖くて堪らなくて、助けを求めるみたいに畑野の唇を吸った。
「んふ。かわい。……先輩、もっとキスしましょ」
「やっ……もぉやっ……とめて……! こしッ……ぅごいちゃっ」
「いいんですよ、それで。……あたしに溺れてください」
ちゅぷ、と音を立てるキスが何度も続いて、自分では止めることの出来ない腰の揺れが、どんどん早く大きくなっていく。
快感の波が、高く打ち付けてきた。
「ぃやっ……っや……さつきッ」
「イッちゃいますか? いいですよ。あたしも一緒にイキますから。一緒に……っ!」
「ひっ……っ、さつ、きッ」
気絶を体験したのは、人生で初めてだった。
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