忘れられない手紙

5/16
前へ
/16ページ
次へ
しかし、桜田は拳を振り下ろすことはなく右手の力を抜き、 チェッと舌打ちした。 そして、少し声量を減らして、「ただ、話をしに来ただけ なんだ。なにも警察を呼ぶ必要はないだろう」と不満そう な表情を見せた。 「あんたに会う気はないと思うよ。真理さん、帰ってもらって いいよな! 」 輝夫は、真理の部屋のドアを見て、耳をそばだてた。 部屋から小さな声だったが「ハイ」と返事が返って きた。 そばにいた桜田にも聞こえた。 桜田は顔を醜く歪め、「余計なことしやがって、おぼえてろ! 」 と叫ぶように言って、駐車場に向かった。 輝夫はその後ろ姿を外灯の白っぽい光で見ていた。 桜田は車に乗り込むと乱暴な運転で、駐車場を出て行った。 あたりが静かになり、ほっとした様子で輝夫はインターホン のボタンを押した。真理がすぐに出た。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加