潮風と悪戯

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潮風と悪戯

 テラスの向こうに広がる海からの潮風が、アルベールの鼻先をくすぐる。  ペンを持つ手を止めて顔を上げると、青い海にはさざめくような白波が立っていた。降り注ぐ夏の陽光の下、波打ち際ではしゃぐ海水浴客たちの姿が見える。その間を歩き回る、果物売りや氷菓売り、貸しヨットの呼び込みの麦藁帽子姿も。  眼下に広がるまぶしい夏の光景に、アルベールはしばしまぶたを細めた。高台に建つこの別荘からの眺めは、何度見ても格別だ。デュトワ氏が特にこだわったという、海に向かって張り出したテラスは船の舳先のかたちに造ってあるから、白いシャツを膨らませる風に乗って、このまま青い海へと出航して行けそうな心地に誘われる。  アルベールは緩やかに湾曲する海岸線を眺めながら、ふと遠くへと思いを馳せた。 (皆今頃、何してるのかなあ……)  そんなことをつぶやきながら、再びペンを取って書きものの続きに戻ろうとすると、 「……んがっ、」  ベンチのすぐ横でうつらうつらしていたレイヴィスが、寝ぼけ声を発してまぶたを開けた。上下していた頭の反動で、目が覚めてしまったらしい。まぶしい午後の陽に目を射られたのかぱちぱちと瞬きし、眉間を指で揉む。 「起きたんだ? レイ」 「あぁ、悪い……寝てた」  彼はくぁ、と大あくびしながら伸びをし、ついでにわしわしと頭をかく。大型の猫のように。気を許した姿に心をくすぐられ、アルベールはこっそり口許を緩めた。こんな風に怠惰に過ごしていても叱られないのが、夏休みの特権だ。  テラスで二人寄り添うようにして、のんびりとまぶしい海を眺める。
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