1804人が本棚に入れています
本棚に追加
/176ページ
女性たちが出て行った後も、絶え間なく客が入り、この日は1日中、私と颯手さんは忙しく立ち働いた。
そして、閉店間際になり、
「ありがとうございました」
最後の客が出て行った後、入れ替わる様に、誉さんがやって来た。
「あっ、誉さん」
「今日は珍しく閑古鳥じゃなかったんだな」
出て行った客と外ですれ違ったのだろう、意外そうに言った誉さんに、
「そうなんですよ、今日はたくさんお客さんが来て、忙しかったんです」
私は満面の笑みで報告した。
「ふうん……」
誉さんは考え込むように顎に触れた後、レジカウンターにいた颯手さんの方を向き、
「颯手、さては、呪言を使ったな」
ズバッと真相をついた。
「さすが、お見通しやなぁ。そうやで」
颯手さんは、涼しい顔で笑って頷く。
「あんまり術に頼るなよ。歯止めが利かなくなるぞ」
じろりと睨んだ誉さんに、
「分かってるて。でもこの店、今、赤字続きやねん。だからしばらくは勘弁して。この店が無くなったら、誉はどこでコーヒ飲むん?」
颯手さんは肩をすくめてみせる。
「確かに、颯手のコーヒーが飲めなくなるのは困るな」
そう言うと、誉さんはそれ以上は何も言わず、手近な椅子を引いて腰を下ろした。
「いつものやつ」
「はいはい」
最初のコメントを投稿しよう!