1865人が本棚に入れています
本棚に追加
4.護王神社の狛いのしし
夏の盛りになり、京都は連日猛暑が続いている。そんなある日、
「ど、どうしたんですか!?誉さん!その足!?」
私が仕事からアパートに帰ってくると、2階の廊下で手すりにもたれ、やさぐれた様子でタバコを吸っている誉さんに出くわした。彼の右足は、痛々しくギプスで固定されている。
「ちょっとな……バイクで転倒して、折った」
「ええっ!?」
私は目を大きく見開き、驚きの声を上げた。
「だ、大丈夫なんですか?」
「大げさな見た目だが、足の指にヒビが入っただけだ。1ヶ月もすりゃ、治る」
「一体どうしてそんなことに……」
そう尋ねると、誉さんはこの上もなく暗い顔をして、
「完全に俺のミスなんだが……立ちゴケした」
ぼそりと言った。
「立ちゴケ?」
「コンビニの駐車場に入れて停めようとした時、エンストして車体が倒れたんだ。で、足を挟んだ。ブレーキレバーも曲がるし、カウルに傷もつくし最悪だ」
足を挟んで骨にヒビが入ったことよりも、バイクに傷を付けたことの方が、誉さんにとってダメージが大きいようだ。
「バイクって、あのバイクですよね。前に乗せてもらった……」
「ああ」
「修理っていくらぐらいするんですか?」
「見積り出してみないと分からんが、数万はかかるだろうな」
「数万……」
「でもな、金の問題じゃないんだよ」
不注意で愛車に傷をつけてしまったことを、誉さんは心底後悔しているようだ。
最初のコメントを投稿しよう!