4.護王神社の狛いのしし

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4.護王神社の狛いのしし

 夏の盛りになり、京都は連日猛暑が続いている。そんなある日、 「ど、どうしたんですか!?誉さん!その足!?」 私が仕事からアパートに帰ってくると、2階の廊下で手すりにもたれ、やさぐれた様子でタバコを吸っている誉さんに出くわした。彼の右足は、痛々しくギプスで固定されている。 「ちょっとな……バイクで転倒して、折った」 「ええっ!?」  私は目を大きく見開き、驚きの声を上げた。 「だ、大丈夫なんですか?」 「大げさな見た目だが、足の指にヒビが入っただけだ。1ヶ月もすりゃ、治る」 「一体どうしてそんなことに……」  そう尋ねると、誉さんはこの上もなく暗い顔をして、 「完全に俺のミスなんだが……立ちゴケした」 ぼそりと言った。 「立ちゴケ?」 「コンビニの駐車場に入れて停めようとした時、エンストして車体が倒れたんだ。で、足を挟んだ。ブレーキレバーも曲がるし、カウルに傷もつくし最悪だ」      足を挟んで骨にヒビが入ったことよりも、バイクに傷を付けたことの方が、誉さんにとってダメージが大きいようだ。 「バイクって、あのバイクですよね。前に乗せてもらった……」 「ああ」 「修理っていくらぐらいするんですか?」 「見積り出してみないと分からんが、数万はかかるだろうな」 「数万……」 「でもな、金の問題じゃないんだよ」  不注意で愛車に傷をつけてしまったことを、誉さんは心底後悔しているようだ。
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