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「愛莉さんのところに、護王神社の狛いのししが来はったらしいで」
愛莉さんが外に出て行った後、僕は誉に向かってそう声を掛けた。誉はコーヒーに口を付けた後、
「知ってる」
あっさりと頷いた。
「なんや、気づいてたんや」
「何度か気配は感じてた」
「……あの子、神的なもんにすっかり気に入られてるね。感覚も鋭うなって来たはるみたいやし……なんか、このままいくと、えらいもんに好かれへんやろかと思て不安になるわ」
思わずそうこぼした僕を一瞥した後、
「なら、お前が何とかしたらいいんじゃないか?」
誉は何でもないことのように、さらりとそう言った。
「どない意味?」
そう返しつつ、誉が何を言おうとしているのか分かって、僕はまなざしを鋭くした。
「あの子の神性を奪えって?そら、そうしたらこないな不思議な力はなくなるやろけど……誉はそれでええの?あの子のこと、好きなんちゃうの?」
「別に……」
僕から視線を反らし、ぼそりとつぶやいた誉にイラッとして、
「あの子は花蓮さんとちゃうんやで。花蓮さんを守り切れへんかったって、いつまでも罪悪感引きずってるんは、誉の方ちゃうん?」
思わずキツイ言葉を吐いていた。
「あの子まで離れていくと思うてるん?誉がそんなんやったら、ほんまに僕がとってまうで」
「お前、牽制してるのか、焚きつけてるのか、どっちだよ」
誉は苦い顔でガシガシと頭を掻くと、溜息をついた。
「どっちもや。――もう閉店やで。帰りよし」
僕はまだ中身の残っているカップを手に取り、誉を睨みつけた後、背を向けてキッチンへと入って行った。
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