3.大文字山登山

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 10分程休憩した後、 「半分以上は登って来てるから、あとちょっとやで」 と言う颯手さんの言葉に励まされ、私は再び歩き出した。  途中、何か所かケーブルが通してある場所があり、颯手さんにこれは何かと尋ねると、五山の送り火の時に薪を山の上に運ぶものだと教えてくれる。  ケーブルを通り過ぎると、目の前に石造りの長い階段が現れた。ずっと上の方まで続いている階段を見て、一体、何段あるのだろうかと、思わず目がくらみそうになった。ここまで山を登って来て、更に今からこれを上るのかと思うと、想像しただけでぐったりしてしまう。 「ラストスパートやで。あと少しやし、頑張りや」  颯手さんは私を励ますと、先に立って階段を上り始めた。私も後に続き、ふぅふぅ言いながら前に進む。  最後の力を振り絞り、長い階段を上り切ると、ふいに視界が開け、 「わあっ……!」 私は歓声を上げた。京都市全域の街並みが、眼下に広がっている。うっすらと靄のかかった風景は幻想的だ。 「ここからやと、送り火の文字、全部見えるんやで」  颯手さんが、遠方の山々を順に指さし、 「あっちが鳥居、左大文字、舟形、妙法や」 と教えてくれたが、靄がかかっていることもあり、私にはよく分からなかった。  さあっと、心地の良い風が私の髪を揺らした。じんわりとかいていた汗が、すっと引いて行く。 「ここはまだ大の字の横棒の端っこや。さあ、真ん中まで行くで」  颯手さんは私を振り返ると笑顔で促し、真ん中に向かって再び歩き出した。 「これは何ですか?」  整えられた道の上を歩きながら、バーベキューのコンロのようなものを見つけて尋ねると、 「それが送り火の火床や。当日はそこに薪を組んで火を点けるねん。今はもう残ってへんけど、送り火が燃えた後の炭を持って帰ったら、厄除けや無病息災の御利益があるて言われてるんやで」 颯手さんはそう教えてくれる。
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