5.貴船神社の神馬

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5.貴船神社の神馬

「いい天気だなぁ」  アパートの小さなベランダに洗濯物を干しながら、私は空を見上げてひとりごとを言った。  肌寒くなるにはまだ早い、10月の中旬。今日のような天気のいい日は、絶好の行楽日和だ。 「今日はお店もお休みだし、どこかへ出かければ良かったかな……」  これといって出かける用事もないので、溜まっている家事を済ませて、積んである本でも読もうと思っていたのだが、こんな日は家に籠るのがもったいなく感じてしまう。 (散策にでも行こうかな。岡崎公園辺りとか……)  そんなことを考えていると、ふいに隣のベランダの扉がガラッと開いた。中から顔を出したのは誉さんだ。彼も洗濯物を干そうと思っていたのか、手に服の入った籠を持っている。 「おう」 「こ、こんにちは」  私はぶら下げようとしていた下着をとっさに隠した(ちなみに普段は、吊るした後に、見えないよう目隠しをしている)。 「天気いいな」  誉さんは籠の中からシャツや靴下を取り出しながら、意外と手際良く物干し竿にかけて行く。 「こんな日は、洗濯物がよく乾きそうですね」 「そうだな」 「どこかに遊びに行けばよかったかな、って、今ちょうど考えていたんですよ」  何気なくそう話したら、誉さんは少し考え込んだ後、 「なら、行くか?」 と言って私を振り向いた。 「えっ?」 「ツーリング。前に行っていただろ。俺の足が治ったら、どこか行くか、って」 「は、はい!そうでしたね……!」  誉さんが骨折をしていた2カ月以上前の話を持ち出され、すっかり忘れていた私は慌てて頷いた。 「行きます、行きたいです……!」 「じゃあ、準備をしたら下りて来いよ」 「はいっ」  勢い込んで頷いたら、誉さんがちょうどパンツを干していたところだったので、私は慌てて顔を反らした。
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