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零話 土御門 誠
土御門――この名を聞けば真っ先に連想させられるのは陰陽師。
「この度はまことに、ありがとうございました……」
厳粛な空間で最奥の小上がり、御簾越しに見える烏帽子と狩衣姿の子供に、頭を下げるキッチリとしたスーツ姿の男が大仰に平付した。
「祈祷により、我々も潤いまし、此方をお納めさせていただきます……」
男はひれ伏したまま、脇に据えていた土御門の使用人が、子供の前に大きな重箱を差し出す。
当然のように子供は何も言わない。
「……」
重苦しい空気のなか、御簾の外に居る老婆が、子供を一瞥し、嗄れた声を上げた。
「表を上げぇ」
男は促されるまま顔を上げ、真剣な眼差しで子供を見据える。
こうした圧倒的立場の違い、身分の違うものに掛ける言葉はない。子供は老婆を扇子で招き、言葉を伝えた。
だがそれもまだ年端もいかない童。
彼が礼節を慮り、このような事をやっているわけもなく、全ては陰陽師としての立ち居振舞い、それを演じているだけである。
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