十 ここで一つ事件を整理してみよう(一)

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十 ここで一つ事件を整理してみよう(一)

 ステイシー刑事の提案のもと、魔術残渣の調査が行われるや否や俺はウェッダーバーンから教員棟から出ていくことを命じられた。仕方なく食堂の隅、ほかの学生とは離れたところで不貞腐れるほかなかった。ステイシー刑事は検査が終われば必ず報告すると言っていたが。  外ではさっきまでの晴れ間が嘘のように、急に激しい雷雨が訪れていた。この時期に特有の気象現象だ。 「まあでもドロシー先輩以外にも犯行が可能だったかもしれない、という意味ではお前の推理はそれなりに説得力があったよ。常日頃ミステリばかり読んでいるだけのことはある」  向かいに腰掛けながら級友のクレス・マイヤーはそんな風に言う。その表情がどこか楽しげなのが、引っ掛かった。  どうやらクレスは一部始終を見聞きしているらしい。彼は透明化の魔術を使えるため校内でさまざまなことを盗み見聞きしている。 「ここらで事件の再検討がしたい。付き合ってくれ」  クレスは無言で首肯した。 「まず事件の発端からだ。ケブラー先生とヒートヘイズ先生がミカミ先生の死体を発見した時刻が十二時二十三分。検死の結果、ミカミ先生は昨夜十時から二時の間に殺されたと見える。  現場である学長室(図参照)にある二つの出入り口——扉と机の後の窓——はいずれも内側にある木製の閂錠で施錠されていた。二つの入り口はどちらも密閉率が高く、糸を挟み込むとそれは動かなくなってしまう。おまけに糸が擦ったような跡もなければ、糸が挟まっていたということもない。したがって針と糸で鍵をどうにかこうにかしたという可能性は考えにくい。 https://30545.mitemin.net/i407415/(現場略図)  ちなみに扉には内外両面に左右一つずつの細長い取手が取り付けられており、ドアノブのようなものは付いていない。  さらに学長室には部屋が部屋として機能しているとき——つまりは部屋が開放されていないとき——に限って、部屋の外からの魔術を一切阻害する魔術がかけられており、部屋の外から念動魔術によって閂を動かす等の細工は不可能だった。  今のところ俺の頭のなかにあるケースは二つ。犯人は空間移動の魔法によってミカミ先生の殺害後、部屋の外から中へ転移した可能性。この場合、必然的に犯人はドロシーということになる。これはさしずめ《転移魔術説》。  もう一つは俺の提示した仮説、加害者が被害者によって部屋の室内から室外へと空間転移させられた説、さしずめ《変則内出血密室説》だ」
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