三 初動捜査

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「いやその可能性はないよ、クエイクさん」  クエイクは自らの思考に割り込むようにして発言するその者を睥睨する。短く刈り込んだ赤毛の下にはまだ子どもといったほうがよさそうなあどけない、けれど理の光を備えた面差しがあった。 「クエイク警視と呼べ、馬鹿者」  赤毛の男はなぜか嬉しそうに肩をすくめる。 「関係者の話では、この部屋にはケイコ・ミカミの手によってある防衛魔術がかけられていたんです」 「回りくどい話し方はよせ。首を絞めたくなる」 「この部屋の外から中に対してあらゆる魔術的な干渉を防ぐ魔術ですよ。この部屋の鍵を外から動かすのは不可能だし、この部屋のなかを透視することも不可能という話です。  そうした魔術が使われていることは僕自身も確認しましたから間違いありません」 「ならばどういうことだ。犯人はまだこの部屋に隠れているとでも言うつもりか?」 「それはありえませんよ。この僕が探したのですから。犯人が透明化していようが見逃したはずがない」 「ならなんだ。ケイコ・ミカミの小説に出てくる犯人みたいに糸や針なんかを使って扉の外から閂を操作したとでもいうのか」 「それもありませんね。扉も窓も密閉率が高い。糸を挟んで扉や窓を閉じたとしても動かなくなってしまうでしょうね」 「八方塞がりというわけか」 「いやいやこの程度では八方手を尽くした、とは言い難いですね。先ほど僕はなんと言いました? この魔術は部屋の外から中への魔術干渉を封じる魔術なんです」 「だから回りくどい言い方は止せと言ってるだろう」 「つまりね、中から外へは魔術を使えるんですよ。犯人は空間移動の魔術を使える魔術師です」
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