五 機械仕掛け

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五 機械仕掛け

 アビスコルとケビンなる猫は死亡し、シェーンフリースは独房に、そしてケイコ・ミカミは被害者だ。ステイシーの言うようにこの事件の犯人が空間移動魔術を使用したのだとすれば必然的に犯人はケイコの孫娘、ドロシー・ミカミということになる。 「お前の言う通りだとすれば孫娘が祖母を殺したことになる」 「近親者による殺人なんて、我が国の犯罪史を見るだけでも枚挙に暇ありませんよ」  クエイクが思わず口をへの字に結んだところで二名の部下が報告に訪れた。  一人目の部下が持ってきたのは、矢に塗られていた毒の出所の話だ。レシッグ医師によると、矢に使われていた毒はワイバーンの尾の毒である公算が高いという。  ワイバーンとはこの国の紋章にも使われる巨大な竜であり、数種類の強い毒を持つためにこれが平原にでも寝そべるとその体躯があった場所の草が物の見事に枯れてしまうという話だ。  ありふれた品物というわけではなく、この毒の出所から犯人を辿ることができるのではないかとクエイクは考えていた。ひとまずこの学院の魔薬学で使われている教材のことを調べるよう部下には命令を出していた。 「魔薬学のゼルバノフ教諭の話では、ワイバーンの尾の毒は確かに魔薬学準備室の薬品棚にあったのですが、今見たらなくなっているということです」  クエイクは顔をしかめた。 「聞かせにいってなんだが、どうしてそんなものが学校にあるんだ。魔薬学の授業で本当に使うのか」 「少量であれば心停止状態からの蘇生薬の材料となるそうです」 「それで、その毒を盗み出すことは誰ならできそうなんだ」 「それが、薬品棚のほうも魔薬学準備室の扉の鍵もどちらも比較的古く簡単な造りでして。鍵開けの魔術やピッキングなどで簡単に開けることができたのではないかと思われます」 「全くとんでもない学校だな」 「クエイク警視」とステイシーが警視の部分を強調して呼び掛ける。「あとで僕が鍵開けの魔術が使われた痕跡がないか見ておきましょうか」 「――頼んだ。もっともそんな管理では大方いつからなかったのかも検討がつかないのだろうな」  犯行前に盗み出したとは限らない。部下は苦笑いしてそのようですと答えた。別に笑うところではないとクエイクは内心ぼやく。
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