幸せを運ぶ鳥

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 ぼくは地に落ちた。もう飛ぶことはかなわないだろうと思った。もう地べたを歩くことしかできないと。でも、ぼくはある人に手をさしのべられた。そしてそれから恩返しをするためにずっとずっと見守っていた。その時がくるのをまって。  ぼくは誰だろう。気がついたらここは山の中だろうか?まわりは木に囲まれている。まわりをさらによくみまわしてみる。すると、向こうに道だろうか、そこだけ少しきれいになっている所がある。ぼくはそこに行ってみるとやっぱり道みたいだ。ずっと続いている。そこを下に向かって進んでいく。するとそんなに山の中だったわけじゃなくすぐに家がみえてきた。  ここからどこに行こう? と一瞬思ったけどなぜか足はとまらないで進んでいく。  なんでだろう?全然知らないはずなのに。  少し歩いてさらに家が多くなったころ、ふと足がある家のまえで止まった。  「ここは?」  なんでこんなところで止まったんだろう。よく見てみるがやっぱり見たこともない。  「行ってきまーす!」  家の中から女の子のそんな声が聞こえた。ぼくはびくっとして電柱のかげにかくれる。するとぼくと同じくらい、小学3年生くらいの女の子がでてきた。女の子を見るとさっきの声とはちがい元気がなくうつむいている。その時猫がぼくの足下にきてにゃーとないた。  「ちょっと」  ぼくは静かにしてっと口の前に指をもっていったがしかしその音で女の子がこっちを向いた。目がばっちりと合う。  「だ、誰?」  女の子が少しおびえながら聞いてきた。  「ご、ごめん。驚かすつもりはなかったんだけど」  ぼくはそういって頭をさげてあやまった。  「君はなんて言うの?」  「え、私?わたしは…ねね、ねねって言うの」  「ねねちゃんか」  「あなたは?」  「ぼく?ぼくは……なにもわからないんだ。だから名前もわからない」  「そうなの?」  「うん」   ……………………………  ここで会話がとぎれてしまった。何か話さなきゃと思って頭をめぐらせる。  「そうだ、これからどこかに行くんでしょ?大丈夫?」  「あ、そうだった。学校に行かなきゃ!ごめんね、またね」  女の子は走って去って行った。さて、これからどうしようか。何もやっぱり思い出せないし、色々みてまわろうか。ぼくはあてもなくぶらぶらと歩いた。そんなことを1時間、2時間とやっているまに夕方になってきた。  ぐ~~~  お腹がなる。  「お腹へったなぁ」  今ぼくは、またねねちゃんの家の前にいた。すると向こうから学校から帰ってくるねねちゃんが見えた。うつむいているようでぼくにはきづいていない。  「お帰り、ねねちゃん」  「えっ?」  びっくりしたのか、ぶん!と顔をあげた。  「ごめん。びっくりした?」  「ううん。いや、びっくりはしたけど……何か思い出した?」  「だめだったよ。いろいろみてまわったんだけど」  「そうなんだ……」  ねねちゃんが悲しそうな顔をした。  「ねねちゃんがそんなに気にすることないよ」  「でも……」  「大丈夫だって」  ぼくはそう言ってねねちゃんに胸をはった。しかし  ぐぅ~~~  ぼくのお腹が盛大になった。は、恥ずかしい。そんなぼくをみてねねちゃんが言ってきた。  「ご飯、食べていく?」  「えっ?でもわるいし…」  「ぐぅ~~~」  またなった。  「いいの?」  「うん!大丈夫だよ」  そう言ってぼくを家の中に招き入れた。するとすぐに  「お帰りなさい」 とお母さんらしき人が出て来た。  「ただいま」 とねねちゃんはかえしている。お母さんはそのあとぼくを見つけるとびっくりした顔になった。  「えっ!?ねね、その子は誰?」  「ねねの友達だよ。名前はね……そう言えばなんて呼べばいいのかな?」  そう言ってこっちに振り返る。えっ、えーとと答えにつまっていると  「そら、そらにしよう」 とねねちゃんが言ってくる。  「そら?」  「うん、そらだよ」  なんだかよく分からないけどとりあえずはそらになるみたいだ。  「お母さん、名前はそらって言うの」  「そら君?」  ぼくはそう聞かれてはいと答えた。  「それでねね、友達を急に連れてきてどうしたの?」  「じつはね、お母さん。そらは何も覚えてなくて帰る場所もないんだって。だから家にいさせてあげちゃだめかな?」  「何も覚えてないってどう言うこと?」  「あの、ほんとに何もおぼえていないんです。気付いたら山の中に倒れててそれで歩いていたらねねちゃんに会ってここに来たってだけで」  「ならはやく警察の人に探してもらわなきゃ」  お母さんが電話に向かって歩いて行く。  ぐぅ~~  またまたお腹がなった。それを聞いたお母さんの足が止まった。  「お腹へってるの?」  恥ずかしさであかくなった顔でぺこりとうなずいた。  「しょうがないわね。ねね、そら君を家にあげてあげて」  「うん!いこ!」  ぼくの手をつかんだ。  「えっ!?」  そしてねねちゃんにひっぱられるようにしてあがらせてもらった。そしてすこしまっていると、おいしそうなパンケーキがおかれた。  「はい、どうぞ」  「いいんですか?」  「いいわよ。お腹、へってるんでしょ?」  「食べよう、そら」  「うん、いただきます」  ぼくはフォークを使って口に運んだ。とってもおいしかった。上にははちみつがかけられていた。お腹がへっていたこともありあっという間になくなってしまった。  「ふふ」  近くでねねちゃんのお母さんが微笑んでいるのが見えた。  「もっと食べる?」  「うん!」  ねねちゃんがぼくのからになった皿と一緒に2枚お母さんに手渡した。ぼくたちはこの後焼けたパンケーキもあっという間にたいらげた。 そしてすこしたったころ。  「そら君、今日は泊まっていきなさい」  「え?」  「ねねもすごい楽しそうだし遊んであげてくれる?」  「はい!」  そうして今日は泊まらせてもらうことになった。ぼくは、ねねちゃんと遊んだ。そして夕飯の支度ができるころねねちゃんのお父さんが帰ってきた。初めはぼくを見てびっくりしていたけどお母さんと話をすると笑顔になってむかえてくれた。  「なにもやっぱりまだ思い出せないかい?」  「はい…なにも…」  「そうか。無理やり思い出そうとしなくていいから何か思い出したら言いなさいね」  「分かりました」  そう答えながらぼくは考えていた。ぼくはなんなんだ?なぜこんなところに?いくら考えてもわからないことだけでぼくは考えるのをやめた。  次の日、今日は土曜日だ。ねねちゃんの通う学校も休み。さっきお母さんがやっぱり警察には知らせた方が良いと言うことででかけていった。ぼくはそんななかねねちゃんと遊んでいる。  「痛っ」  ボールがぼくの顔に直撃した。ぼーっとしていたみたいだ。  「だ、大丈夫?」  「う、うん。大丈夫」  ねねちゃんが心配そうに近寄ってきたのでそう答える。今は庭でボールを投げて遊んでいる。少し狭いけど十分遊べる広さだ。その時ねねちゃんが投げたボールが大きくぼくをこえ家の横に転がっていった。ぼくはそれを追いかけていくとすぐにボールは見つかった。がそのボールの横の物に目がいった。それは青く塗られた鳥かごだった。先端がまるくなり、中には1つブランコのような止まり木がある。  「これは…」  ぼくの心臓がどくんとなった。  「大丈夫~そら~?」  その時帰りが遅いので心配になったのかねねちゃんが歩いてきた。  「あ、ボールみつかったんだね」  「うん、あのさ、これって…」  ぼくはそう言いかごを指さす。  「鳥かごだよ、前、私が飼ってたんだ。もういないけどね…」  「そうなんだ…」  ねぇ遊びの続きしよう?  「う、うん」  それからまた庭であそんでいると、お母さんが帰ってきた。横には警察官らしき人も一緒にいる。  「ねぇ、そら君少しこの人の質問に答えてくれる?」  ぼくは、うんとうなずいた。それから少しでも覚えてる事はないか細かくきかれた。そして最後に分かるまではここにいていいと言われた。どうやらお母さんが話し合ってくれたみたいだった。そのお母さんにねねちゃんと離れた所につれていかれた。  「そら君、たのみがあるの」  「たのみ?」 「ねねといっぱいあそんであげてほしいのよ。あの子家では明るいんだけど学校では友達がいないみたいでだからお願いできる?」  「うん!いいよ」  「ありがとう」  この日はずっとずっと遊び疲れるくらいに遊んだ。そして夜ぼくはお風呂に入るために服を脱いだ。その時、昨日はきずかなかったけど背中の肩甲骨あたりに傷があるのが分かった。  「なんだろ、これ?」  この時ぼくは昔けがをしたんだろうとしか思わなかった。  ぼくが目を覚ましてから三日目、今日も日曜日で学校はやっていない。そこでぼくたちは朝から近くの山に来てあそんでいた。かくれんぼや鬼ごっこ(二人だからとてもつかれた)ボールで楽しくすごしていた。ぼくたちはそれから少し奥に行ってみることにした。探検だとか言って。少し行くとねねちゃんが口をひらいた。  「ここ私きたことあるよ」  「そうなの?」  「うん、昨日鳥かごみたでしょ。飼っていた鳥、そらって言うんだけどここで怪我していたのを助けたの」  「そら!?」  「うん。私の唯一の友達だったの。つばさを怪我していてとべなかったし少し良くなったけどなついてくれてきた頃しんじゃったんだけどね…」  ぼくは改めてその場所を見る。それとどうじに昨日の鳥かごを思い出す。  「くっ!」  頭に何かが流れ込んできた。  これは……!?ねねちゃん?こんなに大きかったっけ?ぼくのまわりには針金?いやかごだ、その中にぼくはいる。これがぼくの記憶?じゃあぼくは……そうだ…  「ね…ぇ……ぇ…ねぇ、大丈夫?」  ぼくの前に大きなねねちゃんの顔があった。  「あ、う、うん」  そうだ…ぼくは全てを思い出した。ぼくはなんなのかもなぜこんなところにいるのかも。ぼくは君に少しだけど命をもらった。それを返さなきゃ。  「ねねちゃん…」  「?」  ぼくが急に名前を呼んだのでなんだろうと首をかしげている。  「あの時ぼくを助けてくれてありがとう。飛べなくなったぼくを思ってくれてありがとう」  「!?」  ねねちゃんは困惑と驚きの表情でそまっている。  「ぼくね、全部思い出したよ、今までの事」  「ほんとに!?じゃあお家とかも…」  「うん。ぼくのお家はねねちゃんの家だ…それにぼくはねねちゃんにあったことがあるよ」  「え?」  「さっきも言ったけどぼくを助けてくれてありがとう。怪我の治療をしてくれて、遊んでくれて…」  「えっでも…そんなことあるの…そらっ!…そらなの…?」  「あるんだよ…久しぶりだね」  「そら!」  ねねちゃんはぼくに抱きついてきた。ぼくはそれに答えて、手にちからをいれる。  「でもなんで、あの時私は結局助けてあげられなかったのに…ぐす…救ってあげられなかったっ!……うっ…うわぁぁっ…ぐす…」  「そんなことないよ。あのままひろってもらわなかったらもっとはやく死んでいたと思うし、あの楽しい時間がなかったんだから。ぼくはとても感謝しているんだ。本当にありがとう」  「でもせっかく会えたけど、思い出せたけど……もうお別れしないと…」  「えっ?なん、で、もっと一緒にいようよ…せっかく友達とまた会えてまた、楽しくなるって…思ったのに」  「ぼくは君にお礼がしたかっただけだからね…もちろんぼくも一緒にいたいけど、世界がゆるさないよ。こうやって会えただけでも奇跡なんだから……」  ぼくの体が光りだす。細かな光が宙をまっていく。  「最後にぼくからのプレゼントをあげる。小さなきっかけだけどね。ぼくからのお礼だ」  ぼくからでた光の一部がねねちゃんの体にはいっていく。ねねちゃんは泣きながらそれを見ている。  「ありがとう。ねねちゃん、ぼくはとても幸せだ」  「あっ……」  ねねちゃんはぼくに弱々しく手をのばす。  「これからは君がもっともっと楽しい日々をおくるんだ」  「うぅ…ん…ありがど……う…ぅ…わ、私もまた会えて、遊べてとてもうれし…かった…」  ぼくはねねちゃんと笑いあう。ねねちゃんの顔は涙でものすごいことになっていたけど。もうぼくは限界だ。  「さようなら………」  ねねちゃんがのばしてきていた手がとどく事なく、ぼくはとけるように消えた。  「………………?」  私、何でこんなに泣いているんだろ。わけがわからない。でも、でも…なんで?涙がぜんぜんとまらないよ。  「ん、あそこにいるのってねねじゃねぇか?」  「ほんとだ、ねねちゃんだよ」  「おーい、ねねちゃーん」  私は名前を呼ばれて急いで涙をぬぐう。呼んできたのはクラスメイトだった。  「なに?」  「あれ、ねねちゃん。泣いてるの?」  「ううん、泣いてない」  私はそう答えた。  「おまえ、こんなところで遊んでんのか?」  「う、うん。まぁ…」  そこで男の子が笑った。  「じゃあ、俺たちと一緒に虫取りしようっ!」  「えっ」  「そうだよ。一緒に遊ぼう」  「いいの?」  「ああ!」  私はうん!とおもいっきり答え、あみをかりてさっき泣いていたこともすっかり忘れてあそんだ。私は初めてこんなふうにみんなと遊んだかもしれない。私の人生はここから大きく変わり始める。とても楽しく充実した色づいた人生に。
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