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血で書かれた文字は初めてか? まあそうだろうな。世代が違う。
男か女かも定かではないが、まずは私より若いのは確実であろう。
昔はそれほど珍しいくはなかった。赤と白の対比は美しいだろう?
白と黒は寂しい。混ぜれば灰色だ。
時刻は何時だ? 君は男か女か? 今年の阪神の順位は? なにもかも知らないことだらけ。だけど、ご容赦を願おう。何一つわからないのだから。
ああ、そう言う意味では私は生まれたばかりの赤ん坊。イヤ……生まれる前の未生
【いまだ生まれず】だと言っていい。
警戒しているね? 大丈夫。私は健康そのもの、手紙を舐め回したとしても、病気になど感染しない。むろん毒も塗っていない。ただし……ふふ。これは私の血液ではない。
だから将来さらに進んだであろうDNA検査に持ち込んだところで、数多くいる被害者の一人が提示されるに過ぎない。でもこれで、謎がひとつ解けただろう? すべての被害者にあった注射痕の理由が、
うむ。申し訳ないのだが、この手紙で私の正体は明かされないのだよ。
死んでもなお、家族に迷惑をかけるわけにはいかないのでね。
それに手紙にたどり着くヒントが届くのは、私がおよそ平均寿命に到達した頃合いの遠い未来だから、私個人を特定したところで死亡しているか、老人ホームでボケ老人に話を聞く、無駄な労力を味わうことになる。
この手紙を書いたのは告白でも懺悔でもなく、なぜ関連性のない多くの殺害が行われたか。その理由が、
うむ。それだけは忘れぬうちに記しておく必要があったからだ。私はそれほど高い能力があるわけではないので、社会的な地位などはさして変動もないだろう。そして、親の資産がそこそこにあり、おかげさまで山っ気も冒険心も持ち合わせてはいないのでそれを減らさぬように只、平々凡々と死ぬまでは生きることになるだろう。
そのような温和な生活は記憶を曖昧にする。
それでは被害者がかわいそうだ。犯人は永久に見つからなくとも被害者の家族に、社会に、なぜ殺されたか、その理由と経緯くらいは残す義務があるだろうと考えたからだ。
私にとり君は謎の存在だが、確実なのは知性と教養と行動力があり罠を潜り抜けた強運を持ち合わせているのだけは確かだ。だから誰であろうと私の興味の対象であり、この記録を君がどのように活用するのか。どのように社会に役立てるのか。
非常に楽しみだ。そして同時に君には責任が生じた。遺族や社会や、私に対して。
順を追って整理していこう。
現在の日時は、2008年7月16日。正午過ぎ。殺人衝動は皆無。これからも。
つまりそれ以降にあった事件は模倣犯である。早急に私の犯行とは切り離し、怨恨など、被害者の関係筋を捜査されることを強くおすすめする。
ではまず、第一の殺人。
1999年5月4日。東京府中市。当時、小学5年生だった男児の絞殺事件。
これについ―――――ー
――――――――――――――― ――――
・大変に申し訳なく思う。このような手紙を書いていることがわかっていたならば、最後まで告白させるべきであった。その前に殺してしまった。
警察関係者ではないのでこの女が誰かは知らない。この女の犯行だとわかったのは全くの偶然だった。そして衝動的に殺してしまった。本当にごめんなさい。
だが、警察に捕まるわけにはいかない。このような殺人鬼を殺めたからと言って罪に問われるのは割に合わない。こちらは愛する人を殺されたのだ。そして最後の最後まで男言葉を使い、年齢まで偽装するこんな卑劣な人間は獣と同じではないか。そうでしょう?
せめてこの文章はこの女の血液で書きました。
だけどそんな必要もないでしょう。この手紙がある場所の半径10メートル以内に死体は埋める。
すぐに死体が見つかれば、自分の犯行だとばれる。だからこの手紙を利用させてもらう。近い将来、この手紙の場所にたどり着くヒントが提示されるだろう。複数の警察やマスコミ関係者に届くのだろう。誰か誰でもいい。たどり着いてくれ。
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