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母に頼まれた醤油とアイスをかごにいれてレジに向かう。会計待ちをしていたら。先にレジにいた男性の後ろ姿に目が留まった。
私より、頭ひとつぶん高い身長。骨ばった肩。Tシャツから伸びた腕の感じ。染めたものじゃない、ほんの少しだけ色素が抜けた茶色っぽい髪の毛。
(あれ……)
みたことがある後ろ姿を見つめた。
隣のレジに呼ばれ、会計をしながら、ちらりと横をみると、記憶のなかの人とその横顔がぴたりと当てはまった。
川嶋くんだ。高校時代、つきあっていた彼氏の友達だったから、自然と話す機会も多かった同級生の男の子。
あれから10年以上たつから、その横顔はもう高校生じゃない。大人の男性のもの。
けれど、飄々としているくせに、穏やかで優しい雰囲気はそのままだった。懐かしさがこみあげてくる。
川嶋くんはわたしに気がつくこともなく、会計を済ませると、すっと店から出て行ってしまった。
「あ……」
思わずため息がこぼれた。急いでお金を支払い、その後ろ姿を追った。もし彼が車で来ていたら、すぐ行ってしまう。
慌てて外にでると、河川敷に向かって歩いていく後ろ姿を、すぐにみつけることができた。
もし誰かが彼を外で待っていたら。一言、挨拶だけでもしよう、そう思っていた。けれど彼もひとり。
イタズラゴコロが湧き上がってくる。あとをつけて不意に声をかけてみたら、川嶋くんはどんな反応をするだろう。
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