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ワクワクする気持ちを抑えきれなくなって、川嶋くんの後について歩きはじめた。
彼は、早くもなく、遅くもないスピードで前を行く。それは記憶のなかにある川嶋くんのテンポと一緒だった。笑いが声になって溢れ落ちそうになり、慌てて口元を引き締める。
海へとつながる河口。河川敷は電灯が少なくて薄暗い。だから基本、こんな時間にひとりで歩いたりしない。
けれど今は目の前に川嶋くんがいる。暗闇を照らす柔らかな灯りみたいに。だから安心してついていく。
湿り気をたっぷり含んだ空気のなか、川嶋くんはゆったり泳ぐように歩く。
一方、ワクワクしている気持ちがそのまま、早足になってしまうわたしは、彼との距離をどんどん縮めてしまう。
とうとう真後ろにまできてしまったのに、川嶋くんはまったく気がつく気配がなかった。
もう、声をかけるしかない。
ドキドキする心臓を宥めて、その背中にそっと呼びかけた。
「川嶋くん」
立ち止まり、ゆっくり振り返る人。昔と変わらない、穏やかに私を見つめる瞳。
彼と目があった瞬間、大人になるなんて、近いようでいて遠い未来だと、無邪気に信じていた高校時代の空気が一気に蘇ってきた。
「……あれ、横井さんだ。久しぶり」
川嶋くんは、やっぱり川嶋くんだった。
十年以上会っていなかったというのに、さほど驚いた様子もみせず、あっさりそう言う。
それでいて。瞳を三日月の形に優しく細めて、わたしをみる感じ。昔と一緒だ。
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