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「変わってないね、川嶋くん」
懐かしくて嬉しくて。ニコニコしてしまうのを止められなかった。
「横井さんは綺麗になったね」
「あー、そういうところも変わってない」
いつも飄々として、何事も俺には関係ない。そんな空気を纒っているくせに。こんな誉め言葉も、ごく自然な調子で口にできる、かなり稀有な男子高校生だった。
そんなギャップが、密かに女の子たちに人気があったことも思い出す。
「どうしたの? こんなに遅くに」
ちょっと買い物なの。そう言って、手に持っていたビニール袋を持ち上げ、かさかさと揺らせてみせる。
川嶋くんはそれを見たあと、ゆっくりとわたしの顔に視線を戻した。
「一人じゃ危ないし送るよ」
ちょっとぶっきらぼうなやさしさも、懐かしい。胸がほわりと温かくなる。
「平気だよ。川嶋くんはどうしたの?」
「あー、俺は……なんとなく、散歩」
なんとなく散歩。いよいよ記憶のなかにいる川嶋くんらしくて、笑ってしまう。
「えー、なにそれ。当てもなく?」
わたしの笑顔が伝染したみたいに、川嶋くんも子供みたいに微笑んだ。
「海でも見ようかなとか思って」
照れくさそうにわたしをみた瞬間、思い出した。
川嶋くんとふたり、この海にきたことを。そう思いついたら、考える前に口が動いていた。
「いいね、私も見たい」
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