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今、このタイミングで川嶋くんと一緒に、海に行く。
焦点がぴたりと合って、絶妙なタイミングで撮れた写真みたいな、そんな小さな奇跡のように思えてしまった。
一方川嶋くんは、何故かびっくりしたようにわたしをみている。どうしてそんな表情をしているのかわからなくて、戸惑いながら見つめ返す。
そのまま数秒みつめあったあと。川嶋くんはゆっくり目を細めて微笑んだ。
「じゃあ、一緒に行こっか」
断られたらどうしよう。そんな心配から解放されて、うんうんと頷いてしまった。
次第に近づいてくる波の音。絡みつくような潮風が、わたしの髪をパタパタと揺らす。
砂浜を昔と同じ調子で歩こうとしたら、足がずぼりと砂にとられて、体がよろめいてしまった。
「わっ」
なんとかバランスをとって転ばないでいられたけれど、カッコ悪い。
「大丈夫?」
川嶋くんはすぐに手を伸ばして、コンビニのビニール袋を持ってくれる。こういうさりげない彼の優しさも、懐かしい。
「おかしいなぁ。あの頃はフツーに歩けてたのにな」
よろめいてしまったバツの悪さと、照れ隠し。そして昔に戻ったようなくすぐったい解放感と。
それらがまざりあった高揚した気分。子供みたいにはしゃいでしまう。
「中身、なに? 結構重いけど」
持ってくれているビニール袋に川嶋くんが視線を落としたときに、ハッとした。その中には醤油と……。
「忘れてた、アイス!」
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