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 慌てて川嶋くんが持ってくれているビニールに手を伸ばし、ごそごそとアイスを取り出す。  さわった感触は、あと一歩で崩れ落ちそうな氷山。 おそるおそる彼を見上げると、腰が抜けてしまった小動物でもみるような、面白がっている視線にぶつかった。 「……まだ食べれるんじゃない?」 「だ、大丈夫かな」 「うん、何ならもう、今食べれば?」  食べるにしても、ふたつも買ってしまった。ひとりで食べていたら、もうひとつのアイスは崩壊してしまう。 「……ふたつあるんだけど、川嶋くんも良かったらどう?」  溶けかけたアイスを差し出す申し訳なさに、おずおずとそういってみると、彼はほんのすこし、瞳を見開いた。  その表情は迷惑、というより、どこか戸惑っているようにみえた。食べたとたん、下に落ちてしまいそうな溶けかけのアイス。そんなものをもらっても、困るに決まっている。    ムリしなくていいよ。そういってひっこめようとする前に、川嶋くんはすっと微笑んで、アイスを受け取った。 申し訳ないとは思いつつ、わたしひとりでは、溶けるまえに食べきれない。  ふたり並んで砂浜に腰をおろす。おそるおそるアイスを袋から取り出してみたら、予想どおり崩落まで時間との競争という状態。 「わー、やっぱり結構溶けてる」  冷たくてベトベトした雫が、ぽたぽたとたれてきた。  慌てて下のほうから齧ると、甘くて冷たい塊が、口の中にどさっと落ちてきた。  ちらりと横をみると、川嶋くんもアイスと格闘している。その表情が高校生のときと変わらなくてつい、口もとがほころぶ。 次から次へと忘れていた記憶がほどけ、あふれてきた。
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