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久々の里帰りだった。
東京からひとりで帰ってきたわたしを、両親は何も言わずに、お帰りと、いつもどおりに迎えてくれた。
それが有難くもあり、心苦しくもあり。ほんの少し複雑な気分。
結婚の約束をしていた修一と、同居を解消して1ヶ月。三十路に入った娘の結婚を待ちわびていた、というか孫の顔をみたがっていた両親のほうが、ショックだったかもしれない。
2つ下の弟も、就職してやっぱり家を出ていて、帰省のタイミングもズレていたから、夕食を終えた居間には両親とわたしだけ。
テレビを観ていても、父と母の、気遣うような視線が、肩のあたりを時折掠め、わたしを落ち着かなくさせる。
「ちょっとアイスを買ってくるね」
勝手に感じてしまう圧迫感に背中を押され、なんとなく立ち上がってしまう。
「夜道をフラフラ歩いていたら危ないわよ」
母の声が、わたしの背中を追いかけてくる。
「すぐ近くのあのコンビニだから平気だよ」
笑いながらそう答えたときに感じた、既視感。
高校生のとき、母が何度もそういって注意してくれたっけ。都会暮らしをしていると、夜に近所のコンビニに行くくらいあたりまえになってしまった自分に気づく。
そんな注意をしたくせに、背中から、じゃあついでに醤油を買ってきて、というちゃっかりしている母の声が追いかけてきて、苦笑する。
わかったー。そう答えて玄関のドアを開けた。
湿度をたっぷり含んだ夜の空気がわたしをもわっと包みこむ。
そんな空気ですら、ようやく息ができる心地がする。大きく息を吸い込んだ。
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