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プロローグ
深夜の散歩
それはまだ高校2年生である私には誉められたことではないが唯一と言える趣味だった。両親が寝静まったあとにこっそり家を出ては静寂の中に身を溶かす。ただそれだけだがそれが案外心地良いのだ。
散歩といっても次の日は学校、加えて警察に補導されでもしたらまずいので小1時間程度で家に戻れるルートを選んでいる。
(ん?)
いつもならこんな遅くに人なんてそうそう見かけないのだが、2本先の曲がり角を人が曲がっていったような気がした。
(私の唯一の趣味にも潮時が来たか)
私は何より「誰もいない夜道」ということにこだわっていた為、明日も散歩をするという気はなくなった。それに2本先の曲がり角は私も通るルートで、曲がった先には小さな神社があり、そこが散歩の際の休憩スポットになっている。先程の人もそこに立ち寄っているのであれば私はこの趣味を捨てるだろう。
最後の深夜散歩だが特に何か変える気は無い。
散歩の余韻に浸りながら家に帰ると時計の針は3時を指していた。私としたことが1時間近くオーバーしてしまうとは。
「明日は、7時に起きればいいから睡眠時間は大体4時間か」
4時間も寝れるならば十分だ、ベットに横たわり暫くすると意識は眠りへと落ちていった
目覚めると7時にセットしたアラームが鳴る5分前だった、どうもアラームをかければそれよりも前に起きてしまう。非常に損した気分だ
両親は早くから仕事へと向かうため朝は一人でご飯を食べている。
今日は菓子パンでいいや。
テレビをつけるとおはようございますとニュースが始まる、この人達は一体何時に起きてるのだろうか・・・私には到底無理な職業だなと思う。
そもそもニュースなんてそこまで興味はない、しかし今日は別だ。見なくてはいけないものがある。
しかし、私の見たいものは見れなかった。
そんなこんなで時間は過ぎ、もう学校へ向かうバスが近づく時間だった
急いで身支度を済ませて外に出る。
「行ってきます」
誰に向けて発したでもないその言葉は長年の癖だろう。返事が来ないことを前提としているので声は小さいのだが。
鍵をかけ、バス停へと足を動かす。
今日も退屈な一日が始まるのか。
バスに乗ったあと、テレビを消し忘れてたことに気づいたのだがまあ、両親が帰ってくるよりは私の方が早く家に帰れるから怒られるのは回避できそうだ
『上城高校前です』
バス停から大体20分、学校前で停まってくれるのは有り難い。
「あ、つーちゃんだ!おはよ!」
下駄箱へと向かって歩いていると大きな声とともに何者かに肩を背後から掴まれた。こんな事してくる友達なんて1人くらいだが
「おはよ、鈴。今日も元気そうだね」
「うん!元気! つーちゃんもいつも通りみたいで安
心したよ」
「私のいつも通りって何・・・」
彼女は佐伯 鈴 入学当初からなにかと話しかけてくれる子だ。明るく容姿も可愛いので周囲からの人気も高い、なぜ私にここまで仲良くしようと接してくれているかはわからない。まあ、この子がいるから学校生活ぼっちをなんとか回避できているのだが
「それよりさ!今日提出の課題やった?」
「嘘、今日までの課題なんてあったっけ?」
「たまにつーちゃん抜けてるよね〜、良いよ後で見せてあげるから」
「恩にきるよ、鈴」
「大袈裟だって〜」
「でも鈴がしっかり課題やってくるなんて珍しい、いつもなら逆なのに」
「酷い!私だってやればできる子だもん!」
ぷくっと頬を膨らませてプンスカ怒る鈴はとても可愛らしかった。自然と笑顔になる
「今笑ったでしょ!」
「ごめんごめん」
本当になんでこんな良い子が私の友達なんだろうか。不思議だ。
1限目が提出する課題の教科な為、早いうちに鈴にプリント課題を写させてもらおうと思ったのだがおかしい、鈴の差し出してきたプリントは私が見た事ないものだった。
結局、無くした可能性が高いと思い後で先生に謝る事にした。
その後1限目が始まってすぐ鈴は嬉々として課題を先生に提出しに向かう。いやみんななまとめて集めるでしょ、どんだけやってきた事嬉しいのよ!
「先生!今回の課題私しっかりやってきたよ!あとつーちゃんがこの課題無くしちゃったかもだから欲しいって」
「つーちゃん? ああ、獅子崎さんね。でもね、佐伯さん・・・」
「はい!」
「その課題は小テストの補修課題だからあなたしか持ってないのよ」
「あー、そういえばそうだった?」
そうだったのか・・・、ていうか小テスト簡単じゃなかったっけ。御愁傷様、鈴
「でもまあ、しっかり提出できてよかったー」
なんて前向きなんだ、素晴らしい
「そうね、あと1枚出せば提出完了ね」
「・・・今、なんと?」
鈴、まじか
結局鈴は残りの課題をもう一回渡されていた
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