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「誰かーーーーーっ!!」
幸い口は塞がれてはいなかったので、大声をあげてみる。うまくすれば外に届くかもしれない。
蛍は何度も声を荒らげ、外に向かって叫ぶ。しかし、何の反応もなかった。
「……だよね」
ガクリと肩を落とす。
簡単に声が届くなら、当然口は塞がれているはずだ。そうではないということは、多少叫ばれようと声など届かない場所にいるということ。それを思い知らされ、体力が一気に奪われた気がした。
「攫われてから、どれくらい経ったんだろう……」
感覚的にはそれほど時間が経ったとは思えない。しかし、蛍は気絶していたようで、さっきまで意識がなかったのだ。実際にどれくらい時間が経過しているのかは定かでない。
どうすればいい? 今、自分にできることは何だ?
落ち込んでいる暇はない。蛍は必死に頭を働かせ、それらを考える。いい案が思いつかず、焦燥感に駆られる。
考えろ、考えろ、考えろ!
蛍はひたすらブツブツとそう唱えていた。
するとその時、扉の外でガチャガチャという音がした。鍵の音だ。
誰か入ってくる、そう思って身体を強張らせていると、しなやかで華奢な身体が見えた。
「……優美ちゃん」
「こんにちは、蛍ちゃん」
まるで街中で会った時のような自然な挨拶が、途轍もなく不気味に思えた。
この異常事態に優美は全く動じていない。
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