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「優美ちゃん、ロープを解いて」
縛られている蛍を見て、優美の口角が上がる。言葉にはしないが、その表情が「ざまあみろ」と言っているように見えた。
「痛そう」
「痛いよ。だから、解いて」
「いい気味」
「……どうしてそんなこと言うの?」
優美にそんなことを言われる筋合いはない。優美に恨まれる覚えも、嫌われる覚えもない。そもそも、そこまでの付き合いではないのだ。それなのに、どうして一方的に悪意をぶつけられなければならないのか。
優美は蛍の前にしゃがみ、目線を合わせる。優美の視線は氷のように冷ややかだった。
「蛍ちゃんってさ、高校の頃、親戚のお家にいたのよね?」
「……そうよ」
何故、今更高校の頃の話をするのだろうか。優美の意図がわからず、蛍は訝しげな顔になる。
優美の方はというと、蛍の反応などには構わず、敵意を剥き出しにしながら後を続けた。
「そんなに裕福でもないみたいだったし、恵まれてる感じもなかった。そこそこ上手くはやってるみたいだったけど、あくまでも表面上だけ、実際は肩身の狭い思いをしていた」
「そんなこと……っ!」
「好意で自分を引き取ってくれた家族を悪く言いたくないのはわかるわよ? でも、その家が蛍ちゃんに安らぎを与えていたかどうかは、蛍ちゃん自身が一番よくわかってるわよね。……安らげなかった。ここは自分の居場所じゃないと常に感じていた」
「……」
何も言い返せない。ありがたいと感謝はしていたが、あの家に蛍の居場所がないことは事実だったのだから。
だから、蛍は高校を卒業後すぐに家を出た。それからはあまり連絡も取っていない。連絡先を渡してはいたが、向こうからも連絡がない。お互い、そういった関係だった。
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