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「結局、負け犬の遠吠えじゃない」
つまらなそうに言い捨て、優美はふん、と鼻で笑う。
優美がまさかそこまでの選民意識を持っているとは思わなかった。蛍は悔しくて、反論せずにはいられない。
「価値観の違いよ。何を大事に思うかは人それぞれでしょ? 別に私は優美ちゃんに私の価値観をわかってもらおうとは思ってない。それに、優美ちゃんの価値観をわかろうとも思わない!」
そう言うと、優美の目がギラリと鋭くなり、刺すように睨み付けてきた。
「負け犬は負け犬らしく、黙ってなさい。二度とそんな口、きけなくするわよ? ……まぁ、黙っていても最終的にはそうなるんだけどね」
「え……」
ゾクリと寒気がした。優美の目は本気だ。そして、蛍を同じ人間とは見ていない。まるで虫けらのように蔑んでいるのがひしひしと伝わってきた。
「取るに足らないどうでもいい人間なのに、皆、どうしてあなたがいいって言うのかしらね?」
「……なによ、それ」
意味が全くわからない。
優美は皮肉げに口を歪め、悲しそうな笑みを浮かべた。
「初めて好きだと思ったの。橋口君は成績も良くて、スポーツもできて、すごくかっこよくて。おまけに、誰にでも優しかったわよね。皆から慕われていて、高校時代はずっとクラス委員長をしていた」
優美に言われ、蛍も橋口のことを思い出す。
確かに彼は、優美の言うような生徒だった。男女問わず、誰にでも気兼ねなく話しかけ、すぐに友だちになってしまうような人物だった。
それほど男子と関わりを持たなかった蛍でさえ、橋口とは比較的よく言葉を交わしていたほどだ。
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