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「優美ちゃん、橋口君と付き合ってたじゃない」
そう、二人は付き合っていた。確か、一年の途中から三年になるまでだったろうか。いや、三年になる少し前には別れたと、風の噂で聞いたような気がした。
「そうなの。すごく楽しかったし、幸せだった。皆から羨まれて、得意だったわ。誰もが思ったでしょうね、最高にお似合いのカップルだって」
「……」
優美は蛍の顎に指をかけ、上を向かせる。そして、腕を大きく振りかぶり、思い切り下ろした。──蛍の頬に向かって。
パン、という大きな音がして、蛍が冷たい床に倒れこむ。ぶたれた場所が燃えるように熱くなり、口の中に血の味が広がった。
「橋口君と私が別れた理由、知ってる? 橋口君ね、蛍ちゃんを好きだったんだって。は? って感じよね! どうして私が蛍ちゃんなんかと比べられなくちゃいけないの? そして、どうして負けるのよっ!!」
再び振り上げられた腕に、蛍は強く目を閉じる。また殴られる、そう思った。
その時、扉の開く音と、鈴の転がるような美しい声が、部屋に響き渡る。
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