697人が本棚に入れています
本棚に追加
「その辺にしておきなさい。彼女はあくまで人質よ? 人質は丁重に扱わなくてはね」
蛍の目の前には、この世のものとは思えない絶世の美女が優雅に微笑んでいた。
まるで作られたようなその完璧な顔立ちに、思わず息を呑む。そして、顔立ちに違わず、プロポーションも完璧だ。
どこをどう切り取っても「完璧」としか言いようがない。それが逆に人間味を感じさせず、蛍は凍えそうな寒気に身を震わせた。
「あら、震えてるの? 怖がらせてごめんなさいね」
美女が蛍の切れた口端にそっと手を触れる。すると、瞬く間に傷が塞がり、痛みも消えた。
「どうして……」
「頬も赤くなってるわ。ちょっと待ってて」
同じように頬に触れると、頬からも痛みが消える。明らかに腫れが引いているのがわかった。
「あなたは……」
手を触れるだけで傷を治してしまうなど、普通の人間とは思えない。それに、先ほどまであれほど邪悪だった優美が、彼女が部屋に入ってきた途端、借りてきた猫のようにおとなしくなっている。
美女の口角がゆっくりと弧を描く。細かい動きの一つ一つが、まるで芸術品のように感じられた。
何もかもが美しすぎて、目を奪われる。そして、油断をすると、心まで持っていかれそうになる。
最初のコメントを投稿しよう!