危機

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「その辺にしておきなさい。彼女はあくまで人質よ? 人質は丁重に扱わなくてはね」  蛍の目の前には、この世のものとは思えない絶世の美女が優雅に微笑んでいた。  まるで作られたようなその完璧な顔立ちに、思わず息を呑む。そして、顔立ちに違わず、プロポーションも完璧だ。  どこをどう切り取っても「完璧」としか言いようがない。それが逆に人間味を感じさせず、蛍は凍えそうな寒気に身を震わせた。 「あら、震えてるの? 怖がらせてごめんなさいね」  美女が蛍の切れた口端にそっと手を触れる。すると、瞬く間に傷が塞がり、痛みも消えた。 「どうして……」 「頬も赤くなってるわ。ちょっと待ってて」  同じように頬に触れると、頬からも痛みが消える。明らかに腫れが引いているのがわかった。 「あなたは……」  手を触れるだけで傷を治してしまうなど、普通の人間とは思えない。それに、先ほどまであれほど邪悪だった優美が、彼女が部屋に入ってきた途端、借りてきた猫のようにおとなしくなっている。  美女の口角がゆっくりと弧を描く。細かい動きの一つ一つが、まるで芸術品のように感じられた。  何もかもが美しすぎて、目を奪われる。そして、油断をすると、心まで持っていかれそうになる。
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