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「あなたは……誰?」
こんなにも心が惹かれるのに、身体の震えが止まらない。寒気というより、恐怖の方が大きかった。弱みを見せたくないのに声が震える。
「さすがヒーラー、普通の人間ならすぐにでも私に心奪われるところだけど、あなたは違うのね。私をとても……恐れている」
美女がふわりと腕を伸ばす。蛍の身体はビクッと激しく反応した。何かされる、と全身が緊張したが、それは蛍ではなかった。
「ああーーーっ!!」
凄まじい叫び声に目を遣ると、優美が苦しみで身体を痙攣させ、身悶えている。
「優美ちゃんっ!」
「あぅ……っ」
美しい顔を大きく歪め、優美は全身を掻き毟っている。整えられた長い爪で強く引っ掻き、そこから血が滴り落ちた。
「止めて! お願い、止めてっ!!」
「どうして? あなたを傷つけたのよ?」
「それでもっ!! 止めて! 優美ちゃんを助けて!!」
蛍の悲痛な叫びを聞いて、美女は楽しげに微笑み、優美への攻撃を止める。優美はそのまま気を失い、床に倒れた。
腕を伸ばしただけで、優美には全く触れていない。にもかかわらず、あれほどの苦しみを与えるとは。
「あなたは……誰っ!?」
その答えを蛍は知っていた。知っていながらも、聞かずにはいられなかった。
美女は見惚れるような優雅な所作で、蛍に向かって一礼する。口元は柔らかな弧を描くが、瞳は氷のように冷たい。
「はじめまして、天羽蛍さん。私は、朽葉七桜。あなたと……マスター、英慧の敵よ」
彼女はインフェクトではない。目の前の絶世の美女は、マスターでなくともわかる。
「……オリジン」
蛍の小さな呟きに、七桜は満足そうに微笑んだ。
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