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「疚しいことがなきゃ、問題ないよなぁ?」
「水無月さん! わざわざ喧嘩を売るような言い方をしなくても……」
「やれやれ。気性の荒い人の下で働くのは大変でしょう? 椎名翔平さん」
「!」
翔平がギクリと身を強張らせる。そして、ゆっくりと朔弥に視線を定めた。
「……まだ、名乗っていなかったと思いますが」
「存じていますよ、椎名さん。そして、そちらの荒くれ刑事があなたの上司、水無月保さんですよね」
「ほぅ、存じているなら話は早い。名乗る手間が省けたな」
慧は内心、やはり、と思う。こちらの情報はすでに掴まれている。敵は慧のことはもちろん、その周辺についても徹底的に調べているようだ。
だとすると、水無月と翔平が警察内で特殊な立ち位置にいるということもわかっている。ここへ来たのは二人の独断、応援を呼ぶのは至難のワザだ。朔弥は端で待機している男たちを盾に、いくらでも逃げ切れる。
朔弥が逃げるということは、蛍の居場所も移動してしまうということだ。そうなると、益々厄介なことになる。
蛍は朔弥たちにとって最後の切り札だ。安易に傷つけたりはしないだろうが、その保証は残念ながらない。傷がついても殺しさえしなければいい、ということもあり得るのだ。蛍が危険なことに変わりはない。一刻を争う。
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