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慧は先ほどとは逆に、朔弥との距離をグッと縮める。朔弥を壁際へ追いやると、バンッと大きな音を立てて壁に手をついた。
「男に壁ドンされる日が来ようとは」
「僕だって、好き好んで男にこんなことしたくないよ。……蛍ちゃんはどこだ? 彼女はうちの大事な所員だ。返してもらう」
ギラリと切れるような慧の視線に、朔弥は楽しそうに笑みを浮かべる。本気でこの状況を楽しんでいるようだった。
「ヒーラーである蛍さんは、あなたの生命線だ。失うわけにはいかない、と」
慧は朔弥の襟元を掴み、顔を近づける。鋭利な刃物のような慧の視線に、朔弥が僅かにたじろいだ。
「ヒーラーだからじゃないよ」
そう一言残し、襟元から手を離す。その反動で、朔弥は壁にぶつかった。相変わらず口元は笑ったままだ。
「慧」
オウルの呼びかけに、慧は肩を見る。オウルはVIPルームをじっと見つめていた。
「入らせてもらうよ」
「……どうぞ」
朔弥が扉を開ける。
慧はVIPルームに入る刹那、翔平を見た。翔平もこちらを気にしていたようで、目が合う。翔平は力強く頷いた。こっちは任せろ、そう視線が訴えていた。慧は微かに表情を緩め、軽く手を上げる。
「鬼が出るか、蛇が出るか」
「どっちも出そうです」
オウルの言葉にプッと吹き出す。
「それじゃ、一刻も早く僕らのお姫様を救出しなくちゃね」
「はい!」
慧とオウルがVIPルームに入ると、朔弥はニヤリと不気味な笑みを浮かべ、その扉を固く閉じた。
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