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蛍は七桜を前に、硬直していた。まるで石にされたかのように身体が動かない。たった一人でオリジンと対峙し、どうすればいいのか、どうなってしまうのか、蛍の目の前が真っ暗になる。
「なかなかいい顔をするのね」
七桜が蛍の頬に手を添える。逃げたいと思うのに、蛍の目は七桜に釘付けになっていた。恐ろしいのに、目を逸らせない。
「その絶望的な表情、素敵。もっと見せて」
七桜が顔を近づけてくる。吐息が触れるその距離に、息を呑んだ。
その時、ガタンと音がする。ハッとして目を遣ると、優美がヨロヨロと起き上がるところだった。
「……もう少しだったのに」
七桜が残念そうに瞳を伏せる。しかし、次の瞬間にはカッと目を見開き、優美の方に腕を伸ばした。
「あああああっ!!」
再び優美が苦しみだす。悲痛な叫びをあげ、身体中を掻き毟り、床にドンドンと叩きつけ自分を痛めつける。血が流れ、手足が妙な方向に曲がっていた。
「止めて! 止めて止めて止めてぇぇーーーーーっ!!」
蛍が我を失ったように叫び続ける。目の前で繰り広げられる地獄絵図に、蛍の精神は壊れかけていた。
「もう……嫌。……止めて」
「どうして? あの女は、あなたにとって大切でも何でもないんでしょう? あなたに酷いことを言って、傷つけた。そんな子を庇う必要なんてどこにもないのよ?」
七桜は無邪気な顔で小首を傾げる。
優美は苦しげに呻き、冷たい床の上でゴロゴロと転がりのた打ち回っている。そんな様を見ても、何も感じていないのだ。
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