危機

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 ***  蛍は七桜(なお)を前に、硬直していた。まるで石にされたかのように身体が動かない。たった一人でオリジンと対峙し、どうすればいいのか、どうなってしまうのか、蛍の目の前が真っ暗になる。 「なかなかいい顔をするのね」  七桜が蛍の頬に手を添える。逃げたいと思うのに、蛍の目は七桜に釘付けになっていた。恐ろしいのに、目を逸らせない。 「その絶望的な表情、素敵。もっと見せて」  七桜が顔を近づけてくる。吐息が触れるその距離に、息を呑んだ。  その時、ガタンと音がする。ハッとして目を遣ると、優美がヨロヨロと起き上がるところだった。 「……もう少しだったのに」  七桜が残念そうに瞳を伏せる。しかし、次の瞬間にはカッと目を見開き、優美の方に腕を伸ばした。 「あああああっ!!」  再び優美が苦しみだす。悲痛な叫びをあげ、身体中を掻き毟り、床にドンドンと叩きつけ自分を痛めつける。血が流れ、手足が妙な方向に曲がっていた。 「止めて! 止めて止めて止めてぇぇーーーーーっ!!」  蛍が我を失ったように叫び続ける。目の前で繰り広げられる地獄絵図に、蛍の精神は壊れかけていた。 「もう……嫌。……止めて」 「どうして? あの女は、あなたにとって大切でも何でもないんでしょう? あなたに酷いことを言って、傷つけた。そんな子を庇う必要なんてどこにもないのよ?」  七桜は無邪気な顔で小首を傾げる。  優美は苦しげに呻き、冷たい床の上でゴロゴロと転がりのた打ち回っている。そんな様を見ても、何も感じていないのだ。
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