危機

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「人を苦しめて……そんなに楽しい?」  優美とは親しい間柄ではない。それでも、同じ高校出身の同級生で、久しぶりに再会した旧友なのだ。優美の性格に難があるとはいえ、苦しめていい理由にはならないし、それを黙って見ていることなどできるはずがない。  しかし、七桜はそんな蛍をあざ笑うかのように、あっけらかんと言い放った。 「えぇ、楽しいわ。人が苦しむ姿は滑稽ね。苦しんで、苦しんで……そして絶望し、苦しんだあげく、命が尽きるその瞬間の顔が最も美しい。……見惚れるほどにね」  七桜の心は人ではなかった。オリジンである彼女は、人の心を持たない。そして理解できない。こんな者の相手など、蛍にできるわけがなかった。 「う……う……うがああああっ!!」  優美が獣のような雄たけびをあげる。縛られているため、耳を塞げない蛍は優美の苦しむ声を遮断できない。胸が苦しい。呼吸ができない。……このまま、死んでしまいそうだ。  七桜は冷ややかな目で優美を見る。そして、ゆっくりと優美に近づいていった。 「止めて! 優美ちゃんに近づかないで!」  蛍は叫ぶが、七桜は聞き入れない。 「耳障りだわ。黙りなさい」  優美は呻き声を抑えようとするが、どうしても声が漏れる。それほどまでに苦しいのだろう。  七桜は優美の側にしゃがみ、優美の髪をグイと掴んで顔を上げさせた。 「優美ちゃんっ!」  優美の顔は苦しさに歪んでいる。あれほど美しかった容姿はもうどこにもなかった。そんな優美を見て、蛍の目の前がゆらりと波打つ。
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