危機

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「人間なのに、インフェクトの瘴気に触れてどうして生きていられるのか。それがあなたには疑問なのよね?」  蛍が頷くと、七桜は人差し指を口元に当てた。今にも踊りだしそうなほどに楽しげだ。 「内緒、って言いたいところだけど、それじゃかわいそうだから教えてあげる。それはね、朔弥の力なの。朔弥の力で一時的にこの世に繋ぎとめられているって感じかしら」 「一時的……?」 「本来なら即死よ。全員分の瘴気なんて、普通の人間の身体が耐えられるわけないもの。でも、朔弥と交わった者は、一時的に生命力が増大する」  蛍の喉が、ヒュッと小さな音を立てた。 「朔弥に群がる女たちの中から、一際虚栄心の強い女を選び、実験体とする。そして、その他の女たちをインフェクトにして、その瘴気を実験体の中に注ぎ込む。数勝負じゃない、強力な個体を生み出そうとしたの。でも、実験はどうやら失敗みたい。……残念だわ」  七桜は蔑むような視線で優美を見る。虫けらのように蛍を見た優美なんて比べ物にはならない、氷のように冷たい目だった。 「優美ちゃんは……どうなるの?」  実験が失敗したなら……優美はどうなる? 大量の瘴気を取り込んでしまった身体はどうなってしまう?  蛍は縋るような目で七桜を見る。七桜は愛しいものでも見るような視線で、柔らかに微笑んだ。
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