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VIPルームに入った慧は、チラリと後ろを振り返る。外への扉はピタリと閉じられていた。おそらく、あの扉はもう開かない。
「さて、と。……地獄への入口はどこかな」
「慧、地獄ではありません」
「どうして?」
「蛍がいるのです。蛍のいる場所は天国です!」
真剣にそう訴えるオウルを見て、肩の力が抜ける。小さく笑いながら、オウルの嘴を軽く撫でた。
「そうだね。蛍ちゃんがいれば、そこが天国だ」
「はい!」
「でも、蛍ちゃんが捕らわれている場所は、天国じゃない」
慧は目を細め、全神経を集中させる。部屋は広いが誰もいないことは一目瞭然だった。しかし、オウルがここを指した以上、蛍は一旦ここへ連れて来られたのだ。ここからどこかへ移動させられた。
オウルも鋭い視線でキョロキョロと辺りを見渡している。微かに残る蛍の気配を追っているのだろう。
「オウル?」
不意にオウルが飛び立ち、豪奢なソファが置かれている場所へ下りる。慧もそちらへ向かうと、オウルはトン、と更に床の方に下りる。そして、辺りを動き回った。
「蛍の気配が、微かですがします」
「わかった」
慧は手を翳し、再び神経を集中させる。
「ここか」
慧は床の一点を指差す。すると、オウルが待ってましたとばかりに、床に張られた高級な絨毯の毛を嘴に挟み、力任せにグイと引っ張った。それだけで、丈夫な絨毯がボロボロに剥がれていった。下手に刃物を使うよりも速い。
絨毯の下に敷かれたフローリングに触れ、ほんの小さな違和感に気付く。
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