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検査の結果、蛍は大事を取って今日は入院して様子を見ることになった。精神的に不安定になっていることもあり、個室を用意してもらう。
病室のベッドに横たわる蛍に、慧は驚かさないように静かに告げた。
「蛍ちゃん、ここは安全だから大丈夫だよ。フクちゃんもいるから」
「蛍、私は側にいますから」
蛍のすぐ側でオウルが待機している。七桜や朔弥が今日また襲撃してくるとは考えづらいが、何が起こるかわからない。
「本当は僕もずっと側にいたいけど……」
蛍の髪をサラリと撫でる。すると、蛍はのろのろと視線を動かし、慧をじっと見つめる。そして、自分の髪を撫でる慧の手に触れた。
「蛍ちゃん?」
「や……」
枯れてかさついた声で、蛍が呟く。微かな声音に、慧が蛍の口元に耳を寄せる。
「ん? 何?」
「い……や……」
「嫌? 何が嫌?」
蛍が自分の意思を伝えようとしている。慧はそれを読み取ろうと必死になり、蛍に覆いかぶさる形でベッドの両脇に腕をついた。
その時、蛍が弱々しい力で慧の腕を掴む。そして、やっと落ち着いたはずの涙が、蛍の瞳からまた流れ出した。
「蛍ちゃん……」
慧は一旦身を起こし、ベッドの端に腰掛ける。そして、掴まれていない方の腕を伸ばし、涙を拭う。
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