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「そんなに泣くと、干からびちゃうよ」
切なげに表情を歪めながらも、何とか笑わせようとする。しかし、蛍の涙は止まらない。
慧はそっと蛍の身体を起こし、そのまま腕に囲う。しっかりと腕に抱いているというのに、今にもすり抜けてどこかへ行ってしまいそうな蛍に不安が込み上げてくる。
「蛍ちゃんに泣かれると……困る。君にはいつも笑っていてほしいのに」
感情が高ぶり、つい力が入ってしまう。ハッと気付いて力を緩めようとした時、聞き逃してしまいそうなほどの小さな声がした。
「蛍ちゃん?」
「いて……」
「ん?」
「側……いて」
慧は目を見開き、蛍の顔を覗き込む。蛍は慧の胸に顔を埋めたまま、何度も頭を振った。
「ここは……嫌……どこ……行かな……で」
途切れ途切れに聞こえる蛍の言葉に、心が痛くなる。
「ここは嫌?」
蛍が小さく頭を縦に振る。慧は天井を仰ぎ、強く目を閉じる。
「慧?」
どうしたのかと、オウルが慧の肩に止まって同じように上を見上げた。しかし、何かが見えるわけもなく、オウルは身体を僅かに傾け、慧をじっと見つめる。
「フクちゃん、蛍ちゃんを頼む」
「はい」
慧が蛍から離れようとすると、蛍がこれまでとは違う強い力で袖を掴んでくる。ポロポロと流れる涙を拭おうともせず、縋るように慧を見つめていた。
慧は目を細め、蛍を安心させるように笑う。
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