心の器

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「大丈夫、僕はどこへも行ったりしないから。蛍ちゃんがここが嫌だって言うなら、家に帰れるよう、先生に相談するだけだから。すぐに戻ってくる」  そう言って、蛍の髪を何度も撫でる。蛍はじっと慧を見つめるが、気持ちが落ち着いたのか、おずおずと掴んでいた袖から手を離した。  まるで、迷子の子どものようだ。いや、実際にそうなのだろう。  知らない場所に一人でいることが怖い。暗闇が怖い。不安で、心細くて、身が竦む。動けない。  蛍の心は今、たった一人で暗闇に取り残され、彷徨っているのだ。 「すぐ、戻るよ」  慧は蛍の頭頂に軽くキスを落とし、にっこりと笑う。蛍は不安そうにしながらも、小さく頷いた。  慧はオウルに目配せし、静かに病室を出て行く。  オウルは蛍の左肩に戻る。そして、優しくちょんちょんと頬をつつく。  本当は、人の姿になって蛍の全身を包んであげたいとオウルは思う。しかし、蛍はオウルが人の姿になると、いつも少し緊張するようなのだ。フクロウの姿の時よりも、ほんの少し他人行儀な気がする。  蛍は、オウルがフクロウの姿でも人の姿でも、優しく笑う。しかし、やはり少し違う。  だから今は、どんなに人の姿になって蛍を包みたくても我慢する。蛍が癒されるのは、フクロウの姿である自分なのだから。  オウルは蛍の頬に身体をピタリとくっつける。そして、頭をすり寄せる。 「オウ……ル……」  涙は流れたままだが、蛍がオウルの方を向いてそっと頭を傾けた。  オウルは触れるか触れないかといった優しい力で、ちょん、と蛍の涙に嘴で触れる。
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