心の器

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「蛍、私たちはずっと蛍と一緒です」  蛍が微かに笑ったような気がした。目を閉じると、溜まった涙が一気に零れ落ちる。しかし蛍はそれには構わず、オウルの頭に自分の頬をすり寄せた。  コンコン、と控えめな音がした後、慧が部屋の中に入ってくる。明らかに蛍の表情が変化した。ずっと強張っていた身体から、僅かに緊張が解ける。  慧は蛍とオウルを見て、表情を和らげた。いつものようにくっついて、オウルは頭をすり寄せているし、蛍は頬を寄せている。少しずつ、蛍がこちら側に戻ってきているのだと思った。 「こら、また二人でイチャイチャして」  いつもなら、「そこ、イチャイチャしない!」と大声を上げるところだが、今は少しおどけたような優しい声だ。なので、オウルは更に身体を密着させ、きゅっと気持ちよさそうに目を閉じる。 「フクちゃん、喧嘩売ってる?」 「喧嘩は売れません」 「売れるよ? 辞書で調べた方がいいんじゃない?」 「帰ってから調べます」 「じゃ、飛んで帰って調べておいで。僕は蛍ちゃんとゆっくりデートを楽しんでから帰るから」 「かえ……る?」  慧の言葉に反応し、蛍が慧の顔を見上げた。慧は笑って、蛍の頭に大きな手の平を置く。 「うん。蛍ちゃんが心から安心できる場所の方がいいって。だから、家に帰れるよ」  蛍はホッとしたように息を吐き出す。そんな蛍を見て、慧の口角が緩やかに上がった。  あの部屋が、蛍にとって安心できる場所になっているということがとても嬉しかった。
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