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「車椅子を借りてきたから、それに乗ってもらうよ」
慧がそう言って蛍を抱き上げようとすると、蛍は首を横に振る。
「歩けます」
小さな声だが、きちんと言葉を発することができるようになっている。ほんの短時間だというのに、オウルが蛍の心をここまで癒してしまったらしい。大人げないとは思いつつ、オウルに少し嫉妬する。
「ダメだよ。足とか傷だらけだし、自分で歩くとまだ痛いと思うよ」
「でも……歩けるから」
慧は小さく溜息をつくと、強引に蛍の身体を抱き上げた。
「慧さんっ」
いつもの声量には覚束ないが、それでも先ほどよりは大きな声で名前を呼ばれ、慧の表情がほころぶ。
「車椅子が嫌だって言うなら、このまま抱いていくよ?」
「嫌です!」
「どうして?」
「恥ずかしいからに決まってます」
「僕は恥ずかしくないよ?」
「私が恥ずかしいんです!」
急に大きな声を上げたからか、蛍がゼーゼーと息を切らす。慧は蛍をそっと車椅子に座らせ、膝を折り、目線を合わせた。
「じゃあ、これで我慢して。本当は家に帰るのも先生的には心配らしいよ? 我儘を通すんだから、ちょっとは我慢しなきゃ」
慧の笑顔に蛍はグッと詰まる。仕方なくコクンと頷き、そのままおとなしくする。
慧が蛍の膝にブランケットをかけていると、オウルが飛んでくる。いつものように左肩ではなく、蛍の膝に下り、そのままペタンとお腹をつけた。
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