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キッチンでエプロンをつけた松田さんを、横で見守る私。冷蔵庫から豚のロース薄切り肉を取り出し、はさみで筋を切ってまな板の上で塩胡椒。大葉とスライスチーズを載せて、3つ折りにする。
フライパンに多めの油を熱すると、迷いのない手つきで小麦粉、卵、パン粉を潜らせた肉を入れる。じゅわっと油が泡のように纏いつき、美味しそうな香りが立ち込める。
「松田さん、いい奥さんになれるよ」
横で茶々を入れると、松田さんは体を揺すりながら笑い、砕けた言い方で言葉を添えた。
「鈴ちゃんもね。可愛いんだから、すぐに彼氏できるよ」
「でーきーまーせーん」
「その気になればね。ゲームばっかりしてると勿体ないよ」
私はイメージする。大人になって、結婚して。こうして料理を作ってくれる松田さんを傍で見守る光景を。わたしがずっとずっと彼の隣にいる唯一の方法。たとえ彼がこの家を去っても、彼と共に生きていける。
そんな妄想を爆走させている女が隣にいるとは露知らず、カラっときつね色に揚げ終えたカツを網に乗せて油を切った彼は、刻んだキャベツ、味噌汁、白ご飯を添えて食卓に並べる。
「いただきます」
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