第4話「報い」

8/11
55人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
 トイレに行きたい。そう思ってゲームの手を止めた。既に真夜中で、部屋を出ると廊下は真っ暗で静まり返っている。  恐る恐る階段の下を覗き込む。灯りが付いているが、そこはまるで魔境のようで、降りていく気持ちは湧いてこない。  そっと踵を返し、用を足して部屋へと戻る。再びベッドへと潜り込んでヘッドフォンをし、ゲームの世界に没入。明日の学校のことなんて、もはやどうでもよかった。  朝を迎え、カーテンを開けることも無く日は沈み、たまにトイレとの数メートルの空間を行き来する。不思議とお腹は空かず、疲れたら寝る。起きたらゲームを繰り返した。  3日が経ったのか、4日が経ったのか。ついに私はエンディングを迎えた。長い長いエンディングだった。感傷はなく、世界を失ったのだという喪失感に私は目覚めた。  お腹がきりきりと締め付けられるようで、手足は軽く痺れている。カーテンの隙間から光が漏れていて、今は日中なんだと知る。立ち上がると少しくらっとして、覚束ない足取りで部屋を出て廊下へと歩いた。  何日かぶりに、階段の下を覗き込む。物音は無く、不気味にしんと静まり返っている。お父さん。松田さん。お母さん。ずっと会っていない。何をしているのだろう。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!