第4話「報い」

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 私はそのお金を受け取ると、ポケットに捻じ込んで踵を返した。  もうここにはいられない。そんな薄い現実感だけが私を包んでいる。 「この家はもう終わりだ」  背後で父が呟く。私は振り返ることなくリビングを出て玄関で靴を履き、駅へと歩き始めた。  太陽が高いところにいて、雲の中にぼんやりと浮かび上がっている。人通りの少ない住宅街の影から影をおぼろげに渡りながら、うるうると視界がぼやけてきて。袖で拭いながらそれでも塞き止められなくて、ひたすら私は自分への怒りと情けなさで泣いた。  たったひとつの嘘。たったひとつの過ちで、私は全てを失った。  いや違う。奪ったのだ。父や母、松田さんから日常を。生活を。地位も名誉もプライドもぜんぶぜんぶぜんぶ。  ごめんなさい。  胸の奥で鳴り響いた言葉を、私はぐっと呑み込むことしか出来なかった。
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