第5話「10年後」

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第5話「10年後」

 またあの夢だ。  しんと静まり返る部屋。うっすらと広がる豆電球の灯り。タイマーをセットしていた扇風機は、とっくに首を休めている。ここはベッドの上だと自覚したとたん、うるさいくらいに響いてくる心臓の音。枕元をまさぐり、スマホの画面にタッチする。真夜中の午前2時だ。  まだ寝れると思いもう一度目を瞑るが、瞼の裏に、ついさっきまで見ていた夢の場面がリフレインする。思い出したくもない。だが、忘れられない。何度も何度も同じ夢を見ている。  10年前――中学2年の私が、いつまでも私の中から消えてくれない。お前は罪を犯した。お前はこんな人間だ。許されると思うな――と、繰り返しているかのように。  目を瞑ったまま私は考えていた。  私がやったことは、一生私の中から消えない。どんなに人に優しくしようと、そのことによって感謝されようと、それはそれ。  私はきっと許されないだろう。私のしたことによって傷ついた人や、迷惑を掛けた人たちに。そしてなにより、私自身に。  やがて意識が溶けていく。深い深い夢の奥へと。次に目が覚めた時には、スマホのアラームが鳴り響いていて、慌ててオフにする。すっかり明るくなった世界と、生暖かい空気。  今度は何の夢を見ていたのか、私は覚えていなかった。
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