プロローグ

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 私は何も声を掛けることなく、無言で花をおじいちゃんの耳元に添える。あの瞬間、おじいちゃんは何を思ったのだろう。私に何か言いたかったのかな。ふとそんな事を考えながら。  私が離れると、やがておじいちゃんの入った白い棺に釘が打ち付けられた。おじいちゃんがいなくなる。漠然と目の前で起こっている事実は、不思議なことのような気がするけど、どこか全然知らない映画のエンディングを見ているようで心に入って来なくて。そんなことよりも、やっぱり私は海に行きたかったという無念の方が心に満ちている。  私は冷たいのかな。家族なのに、涙ひとつで 出て来やしない。  でもいいや。火葬場まではバスで長いから、ゲームの続きが出来る。  束の間の解放感に騙された私は、そっと”おじいちゃん”という記憶の扉を閉じた。
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