プロローグ

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 中学二年に上がって、やっとお父さんに友達と海に行くことを許可された夏休み。クラスメートの芹那と一緒に、水着まで一緒に買いに行った。ふたりで行くの楽しみだねってずっと話してたのに。本当なら砂浜をダッシュして、ビーチで肌焼いて。海の家でとうもろこしとかき氷食べたりなんて夏の海を満喫してたはずなのに。  予定が狂ったばかりか、芹那と気まずい感じになってしまった。昨晩ラインしたら「ああ、そう」って、ちょっと冷たい感じ。スタンプも絵文字も無いし。せっかく仲良くなったのにどうしよう。  おじいちゃんなんて仲良いどころか普段ほとんど話さなかったし。私が小さい頃から家の離れにずっと引き籠っていて、家族と一緒にご飯すら食べることもなかった。そんなおじいちゃんのせいで、せっかくの夏休みが1日潰れてさ。私と芹那の関係が微妙になるなんて、理不尽だ。  坊主のお経がぴたりと止まり、くるりとこちらを向き直る。坊主なのに、髪の毛ふさふさだし、おしゃれな黒縁眼鏡を掛けてるし、変な感じ。坊主が退場し始めると周りの人たちが目を瞑って手を合わせ始めたので、慌てて真似をした。 「お別れだぞ。お花を供えなさい」  お父さんの鋭い声。すたすたと先を行くお父さんと、お母さんの背中。みんなが棺の周りに集まって、順番にお爺ちゃんに声を掛けながら、お花を入れていく。きれいなピンク色の花を渡された私は、恐る恐る棺の中を覗き込んだ。  あれ? おじいちゃんこんな顔だったかな。真っ白で、穏やかで。お化粧してるってお母さんが言ってたから、そのせいなのかもしれないけど。    ふと、ほとんど唯一と言っていい、おじいちゃんとの記憶が蘇る。
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