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教室を出て、階段を三回ほど降りると、昇降口が見えてくる。靴を履き替えるのは面倒くさかったから、勇翔は上履きのまま校庭へ出た。
直接照りつけてくる太陽が眩しい。手で目もとに陰を作りながら辺りを見渡すと、目当てのものは簡単に見つかった。
「あーあ……」
ちょうど教室がある辺りの真下に、弁当の中身がぶちまけられている。
きんぴらごぼうと、冷凍のカップのグラタンと、白米。ぐちゃぐちゃになったところに、風で舞った砂が振りかけられている。
勇翔はそのそばにしゃがみ込み、そっと手を伸ばした。本来なら今頃、自分の胃の中に収まっていたはずのそれをつまみ上げ、持ってきた空の弁当箱に入れる。
人が作ってくれた弁当を、こんな風に校庭の隅っこに放置しておくのは忍びなかったのだ。
冷えた米を掴む。すると、頭上で大きなチャイムの音が鳴った。予鈴である。
「マジか……」
結局、購買に行く時間もなかった。圭太と話していたせいかもしれない。
勇翔は先ほどの会話の終わりを思い返す。
——圭太は僕をわかりたいってこと?
気持ち悪い、と圭太は返してきたけれど、彼の話を総合すると、やっぱりそういうことだとしか思えなかった。
わかりやすければ面白い。わからないから、気持ち悪い。
そうか、僕はわかりにくいのか。
ぼんやりとした思考のまま、勇翔は自分の手を見つめた。腹が減っている。だが購買にはもう行けない。
育ち盛りに空腹は大敵なのよ。母の口癖が頭を過ぎった。
「……」
勇翔は手を広げた。米だ。砂がついている。ごま塩に見えないこともないかな、と馬鹿げたことを考えた。
思いきって、口の中へと放り込む。
歯と歯を合わせると、米の甘みを感じる前に、砂の感触が直に伝わってきた。ジャリ、という嫌な音が頭の芯にまで響くようだ。
不味くて、苦くて、吐き気がする————。
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