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ずっと、圭くんだけを好きだったのに。
やっと両想いになれたのに、こんなに簡単に揺らぐなんて、思わなかった。
彼女は、震える声で言葉をつないだ。けれど、彼女は決して泣かなかった。きっと、傷付ける側の自分が泣くことなど許されないと、強く自分を戒めていたから。
柔らかな声を聞きながら、かつて自分が放った言葉が、耳の奥に蘇った。
今年もクラスの男の子にはあげとらんと?
優しげな響きをまとったその言葉は、彼女の心を、一切の悪気なく傷付けた。本当は、彼女が自分以外の誰かを好きになることなんてありないと、高を括っていたくせに。だって、彼女は自分のことを好きなのだと知っていたのだから。
彼女の言葉は、まったく正反対のもの。俺を傷付けると自覚している、優しい言葉だった。
仕方ないよ、気持ちなんて変わるんやけん。雲居雁を思い続けた夕霧も、結局、落葉宮に心を動かしたんだ。
大人ぶって、綺麗に飾った言葉で、恋を終わらせようとした。彼女の中の自分を、綺麗な大人として、終わらせようとした。
瀬を早み岩にせかるる滝川の――。
彼女の背中を目に映しながら、彼女の名前に、いじましく願を掛けていたくせに。
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