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Scene1.『遭遇』
自分と同じ姿形をしていながら全く別の世界を生きてきた少年ブラッドの後ろ姿を、レッドは蓄積したどす黒い憎悪を燃やして見送った。しかし、その胸中とは裏腹に、彼の顔には微笑が浮かんでいた。
逃げられると思うなよブラッド。
同じ姿形の人間は二人も必要ない。
必ずお前を消してやる。
本当のパパとママの愛を独占したお前を決して僕は許さない。
汚れることなく平穏に暮らしてきたお前の幸せを、一瞬にして壊してやるからな……
レッドは石畳の上を歩き出した。
愉快で仕方がなかった。
こんなに簡単に終わってしまうなんて、きっと神様は僕に味方してくれたんだ。
あいつが幸せを全部一人占めしたから、神様が僕にチャンスをくれたに違いない。
あいつに罰を与えてくれたんだ。
――でも、楽には死なせないよ。
通行人を装うレッドの歩調が早まり、しだいに駆け足になる。人を避けながら急ぎ足で通りを進んで行くブラッドの後ろ姿を彼はその超人的な動体視力で確実に捕らえながら、肩に掛けたバッグで隠すように上着の中に手を差し込んだ。
50メートル……40……35……20……
徐々に接近し、目でその距離を測っていく。
彼が装填を済ませたワルサ―PPKの銃口がブラッドに向けられた。彼の同時三感(見る、判断する、動く)起動能力が始動する。デジタルカメラのフォーカス機能よりも正確に、彼の三感が的を捉えた。
まずは……
発砲した。減音機(サイレンサー)で絞られた銃声とともに、弧を描いた銃弾がブラッドの背後に襲いかかる。その滑らかな曲線が標的のブラッドに到達するまでに、彼の足元に角度を下げる。
「!?」
それは計算済みのことであり、確実に的を捕らえていた。だが銃撃を放ったレッドの顔には苦悶と驚愕の色が滲んだ。
彼の視線は標的のブラッドではなく、別の所に向いていた。銃弾が直撃したのは彼が狙ったブラッドの足――ではなく、瞬時に突き出された鞄だった。同時に彼を庇うように長身の男性が前に出て、振り向きざまに狙撃者(レッド)を見据えた。男性が反対の手で交差するように握り締めた銃が光る。
――銀色(ステンレス)の銃身――S&W Ⅿ60
レッドは銃を上着の中のホルスターに忍ばせた。その眼差しを数メートル先で銃を構える長身の男性に向ける。
忘れもしない。あの華麗な身のこなし、長身、金髪、そしてあのリボルバー。
レッドは声に出さずに独語した。
Wings(ウィングス)――そんな所に居たのか……
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