砦へ

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 地下迷宮。  正にここはそこだった。  確か、30分でたどり着けると聞いていたんだけれども。  時計を見ると、既に1時間経っている。  「はぁ……、はぁ……」  疲れた。  持ってきた荷物がどんどん重くなる。  俺そんなに体力無いんだからな。  自慢じゃないけど。  自慢にならないけど。  休みたい。  でも、初日に遅刻って一番ヤバいと思う訳だ。  信用を失ってしまう。  穴だらけの地下の中でゴールを目指すのがこんなに大変だとは。  俺は運動音痴だけど、方向音痴では無い。  それは断言する。  それなのに、なぜたどり着けないんだ。  手渡された地図にはいくつか曲がり角がある事は書いてあるけど、どの穴をくぐっていくのかは書いていない。  そもそも穴だらけでそんな指示いちいち出せないんだろうけど。  「はぁ……、はぁ……」  少し、休もう。  水、水を飲もう。  このままだと、俺ここで骨になって発見されるのを待つ身になりそうだ。  遠くに荷物を載せた貨物が走る音が聞こえる。  荷物じゃなくて俺を乗せてくれよ。    「はぁ……、はぁ……」  身体と頭が回復したら、出発しよう。  ここはアユタワ国、首都シーゼルの地下。  隣国タールとは長い戦争が続いている。  約10年前、アユタワ政府の主要人物を招き監禁、アユタワにある資源の管理を要求してきた。  アユタワではフォリシナイトという緑色に光る鉱石が取れる。  その鉱石はアユタワ固有の特産品で、鉱石としては硬度、靱性に優れ、加工もしやすく世界的に高価なものだ。  もちろん、そんな要求は飲めるはずもなく、タールへ宣戦布告。  現在世界一の大国であり、最大のフォリシナイト輸出先でもあるドゥマーナの協力を得て政府の人間達は取り返せた。  が、タールはその間にシュバリアという勢力を拡大してきている国と軍事同盟を結び未だあちこちで交戦が行われていた。  分かりやすく言えば、後ろに大国ドゥマーナ控えるアユタワvsシュバリア軍事力を味方に付けたタールという形になっている。  アユタワ有利で進んでいる中、首都さえ落とせば形勢逆転の可能性があると考えているタールは、何度も首都に奇襲をかけてきていた。  シーゼルにはアユタワ中の人口の五分の一、主要な工業、貿易、行政、フォリシナイト採掘場、ほぼ全てが揃っているからだ。  戦争がある中、それだけ発展していたのには、回りを囲む砦が完全な防御網を敷いていたから。  首都を囲む砦は表向きには10ある。  外側に5。  内側に5。  実際には最期の砦となる11番目の砦があった。  運良く二層の砦を抜けられると、ちょうど先細りになり11番目の砦が目の前に来るように設計されていた。  この砦は今から3年前までは通常の砦であり、一度大きな被害が出てから一人の亡霊がその場所を守っている。  今は廃墟のようになっていて、敵が来ると一人の兵士の亡霊が現れ、直接手を下す事無く息の根を止められるか、撤退するかのどちらかを選ぶしか道は無いと言われている。  という、これも表向きの話。  実際の所は、見せている亡霊と隠れている砦兵達を見えない亡霊として、二者の連携のなせる技だと、つい数ヶ月前に知った。
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