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プレイルーム
終戦予定の報告から1週間。
日々砦兵達は自由に過ごしていた。
時折いつもの演習は入ってくるが、今まで通りミスは0%。
ジンノ大佐の足はほぼ完治していた。
遊び半分なのかどうかは分からないけど、決して手を抜くような事はしなかった。
頼りない俺の指示も既に見分けが付くようになり、シミュレーションで想像していたよりも遙かに高い適応能力に驚かされる。
それでも、まだ心の整理が付かない自分は、自由時間もジンノ大佐の執務室で過ごす時間が増えていた。
朝食時。
食べ物の取り合いの最中、タカヤが口にパンを突っ込みながら言ってきた。
「マリアさ、最近付き合い悪くない?」
「そうか?」
そこにキラが割り込んでくる。
「もしかして、俺避けられてる!?」
キラに関しては、全面否定できない部分があるよ……。
いつものように俺達のやりとりを見守っているヒロが言う。
「みんなと過ごす時間も大事だよ。前みたいにプレイルームで遊ぼうよ」
「そうだな。じゃあ、今日は一勝負行くかな」
タカヤが拳を挙げる。
「よし、マリア入れた4人でバドミントンやろうぜ!」
「あー、そっち系の勝負なんだ……。俺、カード系の勝負の方が……」
キラもタカヤの提案に乗ってくる。
「それならダブルスできるな!」
こいつらとダブルス、って、考えただけでも恐ろしいんだが。
「ヒロ、やっぱり俺、今日は……」
「まぁまぁ、マリアもちょっとは鍛えられてきたでしょ? 何とかなるよ」
そうだろうか。
そうだろうか。
そんな気がしないんだが。
そして。
「ぜぇ……、はぁ……、ぅオェっ」
「マリアちゃん、大丈夫?」
大丈夫じゃねぇよ。
吐きそうだよ。
結局、バドミントンのダブルスに巻き込まれて参加したのはいいものの。
シャトルは見えても、ラケットに当たらない、届かない。
当たってもどこかへ飛んでいく。
走り回ってどんどん体力は消耗されてゆく。
これはスポーツなのか。遊戯なのか。
何かの修行の間違いじゃないのか。
「マリアちゃんは俺が守る!」
そう言ってキラが1人で頑張ってくれたけど、ヒロとタカヤは容赦なく俺を標的にしてくる。
アイツら俺に恨みでもあるのか。
「はぁ、はぁ、キラ、気持ちは嬉しいが、俺はもうダメかもしれない」
「そんな事言うな! 俺が力不足でマリアちゃんをこんなに辛い目に遭わせちまった、次は絶対そんな苦しい思いさせないからな」
次って。
次もあるのかよ。
生きるのって、辛いな……。
向かい側のコートからラケットで俺を指してタカヤが言う。
「フハハハ、俺達は勝つ為には手段を選ばないんだぜ!」
同じく向かいのコートに居るヒロがラケットをクルクルと回しながら言う。
「マリアよ、勝負事には時に卑怯も必要よのう」
コイツら鬼か。
良い奴とか思ってたのは今すぐ撤回だ。
俺がコートの隅で四つん這いになっている時、プレイルームのドアからジンノ大佐が入ってきた。
初めて見るTシャツ姿だった。
「うああ! 大佐だーー! 大佐が来るなんて珍しい!」
「これが平和が来たってことか!」
ジンノ大佐はあくまで冷静に言う。
「たまには息抜きしてみようと思ってな」
もしかしてこれはチャンス!
「ジンノ大佐、俺と代わってください!」
ジンノ大佐は床に倒れる俺を見て、周りを見て、ベンチを指さした。
「ベンチに座ってろ」
「はい!」
やった!!
これで開放される!
這いつくばりながらベンチへ移動すると、ジンノ大佐は俺にイーグルを押し付けてきた。
「え、これ、俺が?」
「動きがあればトーレスから連絡が来る」
「見てろってことですか?」
そう言うと、いきなり胸ぐらを掴まれて上から睨まれた。
「ごっ……」
「他にお前が役に立てることがあるのなら言ってみろ」
「あ、あああありませんでしたすみません」
そう言うと、無言でコートへ向かって行った。
怖ぇ。
アレ絶対何かのスイッチ入ってるよ……。
コートに入ってきたジンノ大佐を見て、すぐにヒロが茶化す。
「あれ、大佐動けるの? しばらく杖ついていた人相手に俺手加減できるかなー」
「その言葉、すぐに後悔することになるぞ」
キラは俺が落としていたラケット拾ってジンノ大佐に渡した。
「大佐、前後のフォーメーションいける?」
「もちろんだ」
タカヤはただただはしゃいでいた。
「大佐とバドミントンできるーーー!! やったー!!!」
そんなやりとりが行われ、珍しさに他の砦兵も集まってきた。
はいはい、楽しそうですね。
俺は良い子で情報管理してますよ。
せいぜい怪我に気をつけてくださいね。
そんな皮肉を考えながらタオルで汗を拭きつつ、4人がバドミントンを始めるのを見ていた。
そこですぐ思った事は。
バドミントンて、こんなにラリーできるんだ。
いや、知ってたけどさ。
俺にシャトルが飛んできたらそこでいつも終わってたから長く続くイメージが湧かなかった。
「キラ! 後ろ!」
「おう! オラァッ!」
キラのスマッシュが決まるかと思いきや、床に着く直前にタカヤのラケットが滑り込んでくる。
当たって跳ね返っただけのシャトルは反対コートのネットギリギリ内側に落ちそうになり、それをジンノ大佐がクロスヘアピンでインに打ち込む。
それを読んで先回りしていたヒロがまた拾う。
すげぇ……。
全然シャトルが落ちねぇ……。
スマッシュって、決定打にならないんだな。
当たったら痛そうだ……。
そんな事を思っていると、ジンノ大佐側コートギリギリにシャトルが落ちた。
「アウト!」
ジンノ大佐が叫ぶ。
「イン!」
ヒロが叫ぶ。
「マリア!」
「え、は、はい!」
「どこに落ちた?」
「ラインの上、でした確か」
「よっしゃーーーーー!!!」
ヒロはそう叫んでタカヤとガッツポーズをとる。
「チッ」
舌打ちをするジンノ大佐の表情が殺意に満ちている。
「キラ、最初は俺が後ろに入る」
「了解!」
「プッシュ落としたら殺す」
「ひー、怖い怖い、OK任せろ!」
ラケットを振りながらヒロがジンノ大佐に言う。
「大佐ーー、昔のキレが無くなってきたねー、もう隠居かな?」
「貴様のその生意気な口にシャトルブチ込んで黙らせてやる!」
タカヤもキラも楽しそうに走り回る。
「うっほぉぉーーーーーー!! 楽しーーーーー!!」
「マリアちゃん、見てるぅーーーー!?」
みんなとても楽しそうですね。
俺は見ているだけでお腹いっぱいですよ。
今までジンノ大佐がプレイルームに来る事なんて無かったからな。
相当嬉しいんだろう。
みんなTシャツで汗を拭きながら、少年のように笑っている。
せめてタオルで拭け。
それにしても砦兵達のフィジカルって化け物か。
あんなに筋肉付けてデカい身体してるのに、動きが機敏すぎる。
いや、筋肉があるから機敏なのか。
いつも砦にいたジンノ大佐もいい身体してるもんな、一人でも鍛えていたんだろうな。
ベンチにいてもブンブン音が聞こえる程にラケット振り回して、走り回って、息切れしてもスタミナが落ちない。
イーグルを持つ白くひょろ長い自分の腕を見て思う。
こりゃあ、頼りない……。
結局、そのセットは僅差でヒロチームが勝った。
ジンノ大佐はラケットを床に放り投げる。
「ああ! クソ!」
「やっぱり引き籠もり歴が長いからかな?」
嬉しそうに毒を吐くヒロ。
「俺は病み上がりなんだぞ。これが俺の実力だと思うなよ」
「はいはい、貧相になった大佐相手に可哀想な事してごめんねー」
その一言で、ジンノ大佐の何かがブチッと切れる音が聞こえた気がした。
「おい、マリア!」
「は、はい!」
「床の汗拭いておけ。次はヒロと一騎打ちだ」
何で俺が床拭き係なんだ……。
「あれ、大佐、やせ我慢良くないよ?」
ヒロの言葉を聞くと、返事をする事なく俺を振り返った。
「……マリア!」
「え、はい!」
「俺の足は問題無いな?」
「それはとりあえず今の状態を診せてもらわないと……」
あれだけ走り回っていたら、負担も大きいだろうし。
ジンノ大佐はヒロへ向き直る。
「よし、問題無いそうだ!」
「えっ、俺そんな事言ってませんよ!」
何かどうなってそう変換されてしまうんだ……。
そこにキラがやってきた。
「マリアちゃん、床拭きは俺達でやるから大佐の状態見てやってくれよ」
「悪いね……」
「いいよ。大佐があんなに楽しそうなの見てるの俺も嬉しいから」
楽しそう、か。
やたらヒロがジンノ大佐を煽ってるのもその一環なんだろうな。
負けず嫌いの扱い方もヒロはうまいな。
ジンノ大佐にはベンチに座ってもらい、右足首を見る。
これまでの回復力は凄まじいが、今は少し熱を持って疲れている。
「アイシングしましょう。あとテーピング。15分くらいは休憩してください。水分補給は忘れずにしてください」
そんな俺の言葉は聞こえないかのように、ジンノ大佐はヒロを指さす。
「次は貴様を再起不能にになるまでに叩きのめす!」
もうコレ味方に対する発言じゃ無いな……。
「マリア、少しくらい状態が悪いって言っておいた方が大佐の負けが正当化されるからいいかもよ?」
「軽口叩いて俺に負けても吠え面かくなよ」
「同じ言葉返しますよー」
ヒロに手の平で転がされてるジンノ大佐のやりとり。
砦に来る前は戦場でもこんな感じだったんだろうなと想像できる。
悪ガキ、だな、確かに。
しばらくの休憩後、ジンノ大佐とヒロの一騎打ちが始まった。
狭くはないが、かといって広くはないコート全面を使って二人のラリーの応酬が始まった。
「今のはアウトか、インか?」
「あ、アウトです」
「フフ、ヒロ、手元が覚束ないようだな。現役兵士もこんなもんか」
「あーあ、手加減してたのバレちゃったなー」
「強がりは実力を伴ってから言うんだな」
そんな攻防を眺めていた。
でも、いつも多少なりとも緊張していたみんながこんなにワイワイ楽しそうに遊んでるのを見るとは微笑ましい。
つかの間の遊戯ではあっても、とても大切な時間のような気がした。
ジンノ大佐とヒロの一騎打ちは、僅差でジンノ大佐が勝利した。
ラケットのシャフト部分を肩に置き、勝ち誇ったようにヒロに笑いかける。
「まだまだ俺に勝つには修行不足だな。もう少し鍛えてからリベンジを受けてやる」
「はい、頑張りますねー」
終始ニコニコとしながらヒロはそう言う。
ジンノ大佐がプレイルームに来てくれたのはやっぱり嬉しかったんだな。
他の砦兵達も本当に嬉しそうだった。
一通り遊び尽くして何人か部屋へ戻り始めた頃、ジンノ大佐へイーグルを渡そうとすると拒否された。
「マリア、先に執務室で待っててくれ。俺はシャワー浴びてから戻る」
「え、俺もシャワー浴びたいんですけど……」
「お前汗かくような事してたか? コーヒー、今日はアイスコーヒーだな、作っておいてくれ」
「はい……、あ、足は冷やしておいてくださいね」
確かに、動いてたの最初だけだもんな……。
べた付く身体を濡れタオルで軽く拭いて、執務室に上がった。
アイスコーヒーは濃いめに抽出したものを氷が大量に入ったサーバーに直接落とす。
これもヒロから聞いた知恵だった。
しばらくして、ジンノ大佐がいつもの軍服で入ってきた。
「お疲れ様です」
「ああ、久しぶりにいい汗をかいた」
「どうぞ、アイスコーヒーです。ミルクとガムシロップは必要ですか?」
「いい。……いや、今日はガムシロップだけ入れてくれ」
「了解です」
さすがに今日は疲れたのか。
糖分を欲しがるなんて初めてだ。
「いきなりプレイルームに来るなんてどういう風の吹き回しですか? おかげで俺は助かりましたけど」
「以前までの俺はできるだけみんなの前で身体を動かさないようにしていたからな」
「……ああ、足が故障してましたからね」
「本当にマリアには感謝しているよ。またこんな日が来るとは思わなかった」
その表情は穏やかで、満足感に満ちていた。
「そんな、恐縮です……」
そんなの、ジンノ大佐が意地張って治療しようと思わなかったからだけど、それは言わない事にした。
ただ、どんな内容でも誰かの役に立てた。
俺はそれだけでこれ以上無いくらいに満たされた気分だった。
ジンノ大佐もみんなと身体動かして遊んだりしたかったんだろうな。
「3年前、ちょうど砦に配属された頃から痛みと熱が出ているような事言ってましたけど、もしかして今日が初プレイルームだったんですか?」
「何回かは顔を出していたけどな。本気で挑むとその夜は痛みで眠れなくなっていた。ボードゲームは何度かやっていたが、勝率はあまり良くなくてな、ムカつくから行っていなかった」
「あー、そういう理由で距離を置いていたんですね……」
負けず嫌いが拗れるとこうなるのか。
俺は相手しないでおこう……。
コーヒーを一口飲んで、足を組み、俺に手を差し出した。
「敵が襲撃してくる情報は来ていないか?」
「ありません。至って平和です」
そして、イーグルをジンノ大佐に返却した。
しばらく眺めて、テーブルに置かれているタバコを手に取り、火を付けた。
「近い内に何か動きがあるかもしれない、と思っている」
「同盟を結ぶかどうか、まだ時間があるんじゃないですか?」
「タールとはまだ終戦はしていない。もう戦力もほとんど無いからむやみやたらに攻めては来ないだろうが、まだあちこちで小競り合いは続いているようだ」
「それがここにも来ると?」
「今のタールの勢力でこの砦まで来るのは難しいが、失うもの、守るものが無くなった人間は何をするか分からない。戦争は、そういう人間を何人も作っているからな」
「……なるほど」
背水の陣、という事か。
それでも敵が来れば、トーレスから連絡が入るだろう。
「最後まで気を抜くなよ」
「……はい」
実際に見た事はないからピンと来ないけれど、失うものが無くなった人間の狂気は想像できる。
そんな人間を何人も作ってしまう戦争は、やはりどう考えても肯定できるものではない。
「何度も言うが、俺は誰も失うつもりは無い。お前もだ」
「はい、分かっています。でも、俺もジンノ大佐を失うつもりはありません」
「本当に心配症だな。俺はそう簡単に死なない」
「その自信はどこから来るんでしょう?」
「この前言っていたじゃないか。俺なんかが死んでも悲しむ人がいるんだなと気づかされた」
「当たり前じゃないですか……」
何を今更。
自分が死んでも後釜がいれば本当に問題無いとでも思っていたんだろうか。
「俺が大佐に就任したのも、前任が戦死したからだ」
「……」
「当然だが、ポジションに就く人間がいなくなれば代わりを立てる。だから、あまりそこは心配していなかった。気になっていたのは、俺が居なくなった後の砦だ。それはマリアに任せられると思っていたしな」
本気で言ってるのか。
この人は自分がどれだけ慕われているのか分かってないのか。
「この砦が居心地が良くて、一人でいても孤独を感じないと言っていましたよね」
「そうだな」
「それは、今なら分かります。近くにいなくても、みんな絆で繋がっている。居場所があるだけじゃなくて、……何て言えばいいんだろう、多分、ジンノ大佐の無意識で求めていたものに近いんじゃないでしょうか」
「それは何だ?」
「具体的に言葉にするのはまだ実体がよく分からないんですけど、ジンノ大佐が思い求めて作りあげて来たもの、繋がりのような」
「抽象的だな」
「分かりそうで、まだ、分からないんです」
「そうか。……でも、俺はここにいる限り死なない自信がある。うぬぼれかもしれないがな」
「うぬぼれじゃないですよ。だって、誰もジンノ大佐を失いたくないですから、命がけで守ると思います」
「命までかけられると困る」
「何言ってるんですか。ジンノ大佐は常に命かけてるのに、中途半端に付いてきてる人なんていませんよ」
「はは、過信しすぎだ」
タバコ持った手を少し振る。
「俺はそんなできた人間じゃない」
今まで何度かジンノ大佐は自分を諌めるような発言をしていた。
図太い態度の裏に、弱くて怯えている姿が時折垣間見える。
少しでもそれを良い方向に持って行きたいと思うのは図々しいだろうか。
「キラが自分にとって毒になっているものを糧に変えていきつつあるって、前に言ってましたよね」
「ああ」
他人事のようにそう答える。
「それは、キラだけじゃなくジンノ大佐も、みんなも例外なんていません」
そう言うと、ジンノ大佐は窓辺に移動して俺にタバコの箱を投げてきた。
「まぁ、お前も一服しろ」
「いただいておきますけど……」
俺もタバコに火を付け、深く煙を吸う。
タバコのせいなのか、ゆっくり呼吸をしたせいなのか、少し身体から力が抜ける。
「喫煙者の女神様ってのも珍しいな」
「またそれですか? 違うって言ってるのに」
「これから言う事は戯れ言だ。すぐ忘れてくれよ」
「はい」
ああ、本音を言うつもりなんだ。
「俺にとっては毒も糧も同じだ。もうどっちがどっちなのか分からん。仲間が死ぬのも見たくない。それなら俺がみんなの命をまとめて引き受けた方がマシだ。そう思うのはやっぱり俺が未熟だからなんだろう。この砦から出たくないし、何度覚悟を決めようとしてもここにしがみつきたくなる」
窓辺に両腕を乗せて、そこに顔をうずめる。
「余りに情けなくて嫌になる」
あまり人に弱みを見せないジンノ大佐の、その本音が出てくる。
情けないなんて、誰も思ってなどいないのに。
「俺が無意識で求めているものって何なんだろうな」
「すぐに出る答えなら、もうとっくに見つかってると思いますよ」
「そうだな」
「無意識に抑圧しても、それでも求めているくらいのものなら、もっと生きて見つけましょうよ」
「見つかると思うか?」
「もしかしたら見つからないのは名前だけかもしれません」
「はは、名前か。おかしなものだな。具体的な名前があるかないかで捜し物が見つかるなんてな」
「無意識でずっと探していて、ジンノ大佐が欲しいと思っているもの……」
「分かるか?」
「今ので、分かったような気がします」
「教えてくれ」
「内緒です」
「おい、ここまで言わせて焦らすのか」
「それは、ジンノ大佐自身で見つけて欲しいからです」
「俺自身で、か」
「どうしても見つからなければ、俺が見つけてあげますよ」
「それはそれで悔しいな」
ジンノ大佐は俯いていた顔を上げて、窓の外を見た。
しばらくそのまま外を見ていて、手に持っていたタバコの灰が落ちそうになっている。
「はい、火事にでもなったら大変ですよ」
そう言って、近くに行き灰皿を渡した。
もうフィルターだけになっているタバコをそこに入れて、ジンノ大佐はつぶやいた。
「見つかるまで、ますます簡単に死ねなくなったな」
その後で付け足すように言う。
「戯れ言だがな」
「はい、分かってますよ」
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