砦の朝

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砦の朝

 《ピピピピピ》  目覚ましの音で目が覚める。  設定していた時間通りの朝だけど、周りは真っ暗だ。  地下で生活するってこういう感じなんだな。  でも、思っていたよりよく眠れた気がする。  毛布の中でうずくまる。  この砦で任務が始まる初日。  大丈夫だろうか。  バァン!!!  !!!!!!  突然ドアが開かれた。  「マリア! おはよーー!!」  タカヤが入り込んできて明かりを点けた。  「え、ちょ、まぶし……」  「朝起きるときは明かり全開がいいぞ! 目が覚めるだろ!」  「まぁ、……確かに」  明かりよりもタカヤの勢いの方で目が覚めたよ。  「じゃ、着替えたら朝飯な。早い者勝ちだから急げよ! 俺もう行くからな! いいな、起こしたからな!」  そう言って、走って出て行った。  朝からなんて騒々しいんだ……。  着替えか。  そう言えば、何着ていったらいいんだろうか。  タカヤの服装を思い返してみる。  Tシャツにトランクス。  って、絶対起きた時のまんだろ、それ!  つまり、何でも良いって事か、多分……。  俺は動きやすい服に着替えて食堂に向かった。  「マリア、こっち! こっちだよー!」  食堂に入ると同時に、ヒロが手を上げて俺を呼んできた。  かるく頭を下げて、ヒロのいる場所へ向かう。  タカヤとキラも一緒だった。  テーブルの上には山盛りのパンとソーセージ、スクランブルエッグ、サラダと果物、スープ。  食事の待遇はかなりいい所だな。  「マリアー、遅いよ、俺早くしろって言ったじゃん」  そわそわしながらタカヤが言う。  「え、これでも着替えてすぐに来たんだけど……」  「遅くはないよ、遅くはないけど飯は弱肉強食だからな」  キラはタカヤを見たまま言う。  「全部取られる前にマリアの分は確保しておいたよ」  ヒロもタカヤを監視したまま言う。  「それはどうも……」  恐らく、兵士の朝食の配給が置いてあっただろう場所は全部空になっていた。  ここは野獣の住処かよ。  「ヒロ、昨夜はありがとう」  「そんなのはいいから、早く食った方が良い、タカヤが食い始めてる」  タカヤを見ると、すごい勢いでパンを消費していた。  野獣だ、こいつやっぱり野獣だ。  「いただきます」  目の前のスープを口にすると、かなり旨い。  キャンプの時は缶詰ばっかりだったから、こんなにいいものを口にできるなんて、意外だった。  そういう意味でもやっぱりここは特別なんだろうか。  肩書きのない一兵卒なんてみんな使い捨てのような扱いだったのに。  ありがたく食事をいただくことにした。  ……それにしても、この人達、すげぇ食うな……。  真っ先に食べ始めたタカヤ程の勢いではないが、ヒロもキラも休むこと無く口に詰め込んでいる。  パンの山がみるみる減っていき、残りが6個になった。  パンに手を伸ばすタカヤの手をヒロが掴む。  「待て、これはマリアの分だ」  「えっ、俺はもう、充分食べたからもういいよ」  「いや俺は見てたぞ。パン2個しか食べてないだろ」  「ソーセージも野菜も食べたけど……」  「それじゃ足りないだろ」  「い、いや、もう充分」  「マリアちゃん、そんなに小食なの!?」  キラが驚いた様に言う。  「普通、だと思うよ……」  お前らが食べ過ぎなだけで。  だいたい、あとパン6個も食えねぇよ!  「じゃ、俺食っちまうからな! 後で文句言うなよ?」  「言わないよ……」  「待てよタカヤ、俺もキラもいるだろうが。ここは一人2個ずつで手を打とうじゃないか」  そう言って、ヒロがタカヤの腕をギリギリと締め上げる。  「痛っ!! 分かったよ! 分かったから離せ!」  このテーブル以外の場所でも同じような小競り合いで騒いでいる。  キラが言っていた弱肉強食ってこういう事か……。
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